「雪乃さんあたし、てっちゃんのポロポーズ断ったんだよ。今更もうてっちゃんの所になんて戻れるわけない。健太の事が好きなんです、もう。」
今更…何度この言葉を心の中で使っただろうか?
つい昨日までの私は、確かに今更無理だと思っていた。
「プロポーズ断ったのがなによ、そんなことぐらいで崩れる気持ちだったのっ、ネコと哲也先輩はっ!?」
「雪乃、落ち着けよ。」
直人が私の手をまた掴むけど首を横に振って真っ直ぐにネコを見た。
「この先もう二度と哲也先輩と会えなくなるかもしれないって考えたことある?好きって気持ちは理屈じゃないの。愛してるって想いは、きれいごと言えるようなもんじゃないのっ!!どんなに汚くても惨めでも、それでも拭い去ることなんて絶対にできないものなのよ…。お願い、気づいて――――。哲也先輩を一人にさせないで…。あんなにネコを大事に愛してくれる人、この世のどこ探したって哲也先輩以外いないわよっ!!」
ボロボロに涙が溢れて止まらない。自分がこんなにも感情的な奴だなんて知らなかった。直人が傍にいるってことが、これほどまでに安心できることを、実感せざるを得ないんだ。
「朝海、よかったね。」
チャラ男が私につられて今にも泣きだしそうなネコの頭をやんわりと撫でた。え?って顔のネコの頬を指でほんのり摘まむ。
「雪乃さんの本音だろ今の。こんなにも朝海のこと思って泣いてくれる人はそうそういないよ。」
そこまで言うとチャラ男は直人に視線を移した。
「ちゃんとご主人様の所に返します。きっと俺よりもあの人の方が朝海を必要としている。…―――今更無理を撤回させた直人さんに、俺も朝海を託します。」
「え、やだ健太、何言ってるの?」
「大丈夫だよ、朝海なら。俺がいなくても毎日笑顔で過ごせるよ。」
「無理だよ、健太がいないと。あたしのことお嫁さんにしたいってさっき言ったよ、」
「あれは、嘘だよ。ごめんね俺そういう男なの。適当なんだよ。だからもう、ばいばい…。」
立ち上がった神谷健太は、私と直人に深く一礼すると、そのまま店を出て行った。当たり前に後を追うネコを、私と直人のふたりがかりで引きとめた――――
子供みたいに泣き喚くネコをただひたすら抱きしめるしかできなかった。