「もう行っちゃうんだ。」
「すぐ戻るよ。あっち着いたら連絡するから。時差は気にしないで、雪乃の都合のいい時にいつでも連絡して。どんな時間でも取れるようにしとくから。」
ポスッて直人の手が私の頭を撫でた。それから視線を哲也先輩に移す。
「てっちゃん。雪乃の事、またお願いします。」
私の為に頭を下げる直人に、哲也先輩は背中をポンと叩いて「傷心の俺の前でイチャつきやがって。」なんて憎まれ口。もしかしたらもう直人の口から私の事が告げられていたのかもしれない。でもこうして別れを惜しむ私達を、さも当たり前みたいに思う哲也先輩の本音は、たまらなく寂しいんじゃないかって。
傍に大好きなネコがいないって、どうなんだろう?なんて、センチな気分になったんだ。
「雪乃、」
ふわりと片手が私の後頭部に回る。そのまま直人の首元に抱き寄せられて。
「じゃあ行ってくる。」
そのまま髪に小さく口付けて、ゆっくりと私から離れていった。
「いってらっしゃい。」
私の言葉に微笑むともう一度名残惜しめに髪を撫でて、そのままくるりと反転すると大きなキャリーケースを転がして私の前からいなくなった。
角を曲がって直人の姿が完全に見えなくなると、哲也先輩が小さく口を開いたんだ。
「八木は知ってんの?」
…するどいなぁ、その洞察力。小さく首を左右に振るとポスッと哲也先輩の手が頭を撫でた。
「直人さんがまたロスに戻るって知った時、すごく嫌で。また日本に取り残されるって、置いていかれちゃうって思ってしまったんです。今更、馬鹿みたいですよね。」
「…俺もそうやって素直に嫌だって言えたら、違ってたのかな…。雪乃はさ、幸せ掴めよな。」
哲也先輩こそ、幸せ掴んでください…なんて、軽々しく言えなかった。ネコの神谷健太を思う気持ちも、やっぱり分かるから。
どうしたらみんなが幸せだと思える人生を歩めるのだろうか?
神様は、結構意地悪だよね。