私の本音1


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目の前のソファーでふんぞり返って腕を組んでいるネコ。いやそんな顔される覚えはない。


「…なに?」
「なんで、ゆせくんのシックスパックなんですか!?触り心地!?感触!?」


おっしゃる意味が分かりません…って、隣で珈琲を注いでくれているネコの良き理解者であり恋人の哲也先輩を見ると、視線に気づいた先輩もチラリと私を見た。一浪している哲也先輩は歳は一歳直人よりも上だけれど入社は直人と同期だ。きっと私よりも直人のことも分かっているのかもしれないなんてたまに思っていたりもする。


「なんで雪乃は朝海じゃなくて、八木ちゃんの腕の中で泣いたの?って朝海は言ってるんだと思う。」


さすがネコ語も理解している、あっぱれ。そしてこうして2人一緒にご飯の席を設けてくれたのは心配してくれているんだって、分かった。


「…ごめんね、ネコ。哲也先輩も、ごめんなさい。」


スッと頭を下げて顔を上げたらネコは泣きそうな顔で。今の今まで怒っていたのに、気まぐれだなぁ〜。でもそんな所も結局は可愛くて。


「色々心配かけてごめんなさい。…今でも直人さんのことが好き。忘れるなんてできない。私の為を思って直人さんは何も言わずに行ったんだろうって思うんだけど、そんな直人さんの優しさもただ苦しいだけで。自分の気持ちもどうしたいのか見えなくて。直人さんを追ってロスに行こうとも考えたけど、やっぱりプランナーはずっとやりたかった仕事だから私も頑張りたくて…。でも一人は寂しくて辛くて…―――ただ逢いたいの。声が聞きたいの…―――直人さんに逢いたい、」


泣き虫女は嫌いなのに、こうしてすぐに涙が溢れてしまう自分が嫌になる。


「直人さんも雪乃さんも、馬鹿みたい!」
「朝海、こ〜ら!」


メって哲也先輩がネコを宥めようとするけど、キッキって拒否して私を見る。


「ぜんっぜんわかんない、あたしには。一人で行った直人さんも、一人で待ってる雪乃さんも。それが大人っていうならあたしは子供でいい!!」
「え、そしたら俺、ロリコン!?」
「え〜てっちゃんならロリコンでもなんでも好き。」


ごろにゃんって哲也先輩に寄り掛かるネコに心がギュっと掴まれるような感覚だ。もしもここに直人がいたなら「おいおいここはラブホじゃねぇぞ!雪乃帰ろーぜ、もう!」なんて憎まれ口を返したに違いない。でも実際ここには直人はいない。


「やっぱり馬鹿みたい、だよね。一人で待ってるのなんて。」


LINEも連絡先も何もかも全部私の所に残っている。ただ直人がいないというだけで、そこには直人がいた形跡が何一つ消えてなんかいなくて…。

小さく呟いた私の声に、哲也先輩が深く溜息をついた。