「…ゆき乃…?」
ちょっとだけ困惑した嘉くんの声。でもそれすら心地よく思えて。ギュッて嘉くんの背中に腕を回して抱きつくと「どうしたの?」優しい声が届く。
「好き。」
「えっ!?」
「嘉くんが好き。ずっとずっと嘉くんのこと好きだった。…私じゃダメ?」
溢れる気持ちを止められなくて言葉にしたものの、恥ずかしくて顔なんてあげられなくて。
トクン、トクン…って嘉くんの心音が、トクトクトクトク…って早くなった気がした。
「…嬉しいよ、ゆき乃。ありがとう、こんな俺の事。…でもごめん、さち子のことまだ好きなんだ。ゆき乃とはこれからも友達でいたい。」
受け入れて貰えるなんて思ってた訳じゃない。
こうなるって、分からなかった訳じゃない。
だけど実際嘉くんの声で、嘉くんの言葉で、嘉くんの意思でノーと言われるのは、すごくすごく苦しい。
胸が痛くて鼻の奥がツーンとする。ポロリと涙が零れた瞬間、嘉くんの腕から離れた。
「…ごめん、俺、ほんとに、」
泣いてる私に動揺してるのが分かる。今まで学校で、ましてや人前で泣いた事なんて一度もなかった私が泣いてるなんて、びっくりするよね。
ゆき乃なら泣かないって思ってた?
ゆき乃は強いって思ってた?
自分ではそう生きてきたつもりだったけど、嘉くんに拒否られただけで、こんなにも世界が終わったみたいに辛いなんて、知らなかった。
「…分かった、ごめん私こそ。」
くるりと嘉くんを見ることなく反転したものの、このまま教室に戻ったら確実に嘉くんはボコられる。
ピタっと足を止めた私に、嘉くんが「ゆき乃!」呼び止めたんだ。
「なに?」
振り向くことなく聞くと一歩私に近づいたのが分かる。
「こんな時にあれなんだけど、弟の健太くんと朝海さんって、別れてたりしてないよね?」
「え?」
思わず振り向くと、嘉くんと目が合った。やっぱりその顔見るとドキドキしちゃうよ。
「三日前snakeって店で、1年の深堀って男と一緒にいるの見かけて。なんか結構親密な感じだったから、その…、」
「誰にも言わないで、それ!!絶対に誰にも言わないで!!あの二人別れてなんてないから。ネコは健太のものだから。」
勢い余って嘉くんの胸元に飛び込む形だったけど、しっかり受け止めてくれて、それだけで身体が暑くなる。馬鹿みたいに。
「分かった、言わないよ。」
「ありがとう。」
今度こそくるりと反転して嘉くんから離れて行く。