一歩踏み出す度に零れ落ちる涙。
おかしいな、涙腺ぶっ壊れた?
それでも嘉くんの傍に居られなくて、階段の下から出て数歩歩いた所で足が止まる。
「……ふぇっ、」
なんでいるのよ?なんて声に出せなくて、ポロポロ零れる涙を見たサワが、すぐ様私の腕を掴んで渡り廊下の外にある中庭へと連れて行く。
大きな木の下にトンと背中をついたサワがそのまま何も言わずに私を抱きしめた。
トン、トン…って子供にするみたいに優しく背中を撫でるから涙が止まらなくて。
夏休み前日の終業式を、高校三年目にして初めてサボったんだ。
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「ゆき乃、ちょっといい?」
学校が終わってみんなでファミレスに行く途中、陸に腕を掴まれた。隣にいるサワと三人、みんなの列から少し遅れて歩く。
いつも笑っている陸の真面目な顔はあんまり見たことがない。
「な、に?」
「ネコのことなんだけど。」
「ネコ?」
今朝、なっちゃんに連れられて教室に入ったらしいネコ。なんだかんだで、女に優しいなっちゃん。
さっきの嘉くんの事もあって、ちょっとドキドキする。
「…三日前、あいつやましょーんとこに居て。鍵持ってるのなんて、俺と陣くんと健太しかいないんだけど、すり替えられてたんだ、これ。」
チャラって陸の制服のポケットに着いた鍵を外して私の目の前にチラつかせた。
「そもそもやましょーの事、誰もネコに話してねぇのになんで知ったんだろ?って、まずそこが疑問。」
ジィッと探るように私を見下ろす陸にドクンと胸が音を立てる。
「ゆき乃なんか知らない?」
「知らない!」
ちょっと被せるように言ったのがマズかったのか、陸が私の腕を掴んだ。
「ゆき乃。ほんとに知らねぇ?」
「だから知らない。サワ!」
陸の手を振り払ってサワを間に入れた。そのままサワの腕を組んで反対側を歩く。
「いやめちゃくちゃ怪しいんだけど!」
真剣だった陸の顔にフッて笑顔が見えた。そうやって笑っててくれないと怖くて嫌で、サワの腕に顔を埋めるとクスって笑われた。
「陸はその鍵ネコにすり替えられたと思ってるわけ?」
「まぁそう。バイク乗せた時…しかないんだよ、どう考えても。まぁけどそこは俺が甘かったから。問題なのはなんでネコがやましょーの事知ってたのかで。さっぱりわかんなくて。」
頭をブンブン振る陸の金髪がサラリと揺れた。
「あと一歩なんだけど、その一歩が分かんなくてもどかしい。…なんとか健太とネコを元通りにしてやりてぇし。やましょーもネコのお陰で正気を取り戻しつつあるし。」
「えっ!?」
思わずサワの横から顔を出して陸を見る。
「やましょーさ、ネコにベタ惚れなの。売人の女、ネコにちょっと似てるらしくて。そんで魔が差したっていうか。まぁ気持ちは分からなくはねぇけど。」
陸の言葉が遠くで聞こえるような感覚だった。ドクンと心臓が脈打ってるのが分かる。
何かが引っ掛かる。でもその何かがわからなくてモヤモヤする。