その後目が覚めたら、知らない部屋だった。
俺が寝返りをうったのに気づいたんだろう、ゆき乃の弟のマサくんが顔を覗き込む。
俺、この子に嫌われてたよな、確か。
「…大丈夫?」
だけどそう言ったマサくんの声は想像より優しくて。
「あーうん。」
声を出すとめちゃくちゃ喉が痛い。口内に胃液の味が残っていて嫌な気分だった。
「悪かった。けどあれやれんと廃人になるから。」
「ありがとう。助けてくれて。」
ニコッと笑うと、目を逸らされた。
「ねぇねは、別の用で今ここにおらんけど、たぶん夜には戻る。とりあえずこれ、飲んで。」
ポカリスエットを大量に置かれてマサくんは立ち上がる。
「ドア出て突き当たりが便所。好きに使っていい。」
「うん、ありがとう!」
それからひたすらゆき乃を待った。
夜に帰るって言ってたけど、帰ってこなくて…
ウトウトしていた夜明けに、「嘉くん。」甘い香りと優しい温もりに目を開けたらゆき乃が目の前で泣いていた。
「ゆき乃、どうしたの?」
聞くけどずっと泣いてて答えられなくて。だから腕を伸ばしてゆき乃を抱き寄せた。
「こうしててあげる。好きなだけ泣いていいよ。」
トン、トン…て、背中を優しく叩くとゆき乃が俺にしがみつく。
「健太がナイフで刺されて病院に運ばれたけど、傷が思ったより深くて、今も意識が戻らなくて。」
泣き止んだゆき乃がそう言ったのは陽が完全に昇った後だった。
「ネコとやましょーは病院にバレたら捕まっちゃうから隔離して薬抜き。ネコは腕も刺されて、もしかしたら麻痺が残っちゃうかもしれないの。…嘉くんが無事でよかった。 」
またズズっと鼻を啜るゆき乃。
俺が知らない間にそんな事が。
「嘉くん、さち子は」
「別れるよ、ちゃんと。最初から俺の事なんて好きじゃなかったんだろうけど。…―――それまで待っててくれないかな?ちゃんと別れて、ちゃんとゆき乃に好きって言いたい。」
顔を赤くして笑ったゆき乃は「今言ったよ、好きって。」また俺にしがみついて泣いた。
嗚呼、俺、やっぱりどうにもゆき乃が大事だ。心から思えた―――――。