【side 朝海】
「今頃ゆき乃しぇんぱいは、デートしてんのかなぁ。」
窓の冊子に腕を置いてそこに顔を乗せる。夜空の花火は悔しいくらい綺麗で、心も洗われる、なんて。
「朝海も行ってこいよ、デート。」
「行く人なんていないでしょ、あたしに、」
あたしには…――そう続けようとした時だった。
この部屋のドアが開いたんだ。
もしかして、なんて思ったあたしの目に入ってきたその姿…―――「なんだ、陣くんか。」いつものご飯を持ってきたであろう陣があたしの言葉に苦笑いを見せた。
「悪かったな、俺で。今日はな、健太の好きな餃子やで。」
ニカッて馬面で笑うけど全然楽しくない。
「健太がいないのに、そんなに食べられないよ。」
テーブルに乗せられた、何人前!?って量の餃子。一口食べると手が止まる。
同じようにやましょーも一口パクつくけど、顔色一つ変えない。
「これ、しぇんぱいが?」
陣を見上げると、その後ろ「俺の味、忘れちゃった?ネコちゃん。」…―――逢いたくて逢いたくてたまらなかった健太がそこで笑っているんだ。
瞬間でボロって涙が零れる。自分の感情なのか、身体が反応しているのか分からないけど。
「…なんで?」
「なんで?って、俺に逢いたかったでしょ?」
「うん。逢いたかったよ、死ぬほど。」
「その声が聞こえたから。朝海が俺に逢いたくて泣いてるって、俺の魂がそう思ったから、戻ってこれた。」
…間違えるわけのない、健太の味。ほとんど料理なんてしない健太が、唯一作れるこの餃子。何度も食べたから忘れるわけがない、健太の味。
「ほら、行けよ。」
ポンッてやましょーがあたしの背中を推す。だからふわりと立ち上がって健太の前に行くと、迷う事なくその腕を掴んで健太に抱きしめられた。
「逢いたかった、朝海。」
壊れそうだった心が修正されていく。
グレーだった景色に色が入る。
心臓が動いているのが分かる。
血が通っていくのが分かる。
嗚呼、あたし、生きてるんだって。
「健太ぁっ、健太あっ、」
伝えたい事は沢山あるけど言葉にならなくて、ただ抱きしめる健太にしがみついて泣いていたんだ。