「ゆき乃!」
ポンと肩に乗っかる樹の手。振り返ると嬉しそうに微笑んでいる樹がそのまま私の髪をやんわりと撫でて「もう上がれる?」優しく聞いた。
あれから全集中して仕事を終わらせてやったもーん。私にとっては今日が勝負だし。そう思って小さく頷くと樹の腕が私をそっと立ち上がらせた。
そのまま迷うことなく手を繋いで指を絡ませる樹に、総務部女子たちが無言の視線を送ってくる。
気づいていないのか、樹は私しか見えてないのか、今にもキスしそうな距離でニヤついている。
「そーいうキャラだった?樹って。」
「え?キャラ?え?」
「私しか目に入ってないでしょ?」
「…うん。え、ダメ?」
照れくさそうに、でも少し不満気に私の頬にスリスリしてくる樹に、なんていうかめちゃめちゃ胸がキュンとした。
勝手なイメージだけれど、樹はちょっとなっちゃんに近いんじゃないか?って。あんまり女と話しているイメージもなく。まぁそこまで樹を意識していなかったからもあるんだろうけど。
かみけんのところに来た樹が最初は誰だかも分かっていなかったし。
クールな印象がある樹が、好きな女の前ではこんなにも甘ちゃんになるなんて…悪くない!
ふふ。私は繋がっている腕を離すと、その手を樹の腰に回した。
一瞬目を見開いた樹に「もっとくっつきたい。」なんて耳元で言ってみれば、樹の腕が私の肩に回る。だからそのままコテっと肩に頭を預けると、「可愛い。」って吐息混じりな樹の声にまた胸の奥がキュンと疼いたんだ。
◆
「わー素敵。」
「気に入った?」
「うん!」
「よかった。」
心底ホッとした表情で私の向かい側に座る樹。
どこぞのビルの最上階のここは、東京の夜景が見える絶景で。少し暗めの照明で、一面窓になっているのですごく雰囲気がよかった。
夜景から伸びた空には東京ではあまり見れない星も瞬き初めて、手元にはウェイターが運んできたシャンパン。
今夜も酒が美味しく感じる。
「実はここ、健太さん御用達なの。」
前菜を口にしながらそんな事を零す樹。黙っていれば樹のお店になるっていうのに、案外素直なんだなぁなんてちょっと可愛く思えた。
しかしだ、健太さんって名前に聞かずにはいられないのは仕方の無いことで。
「それはペアリングの女と?」
私の問いかけに樹はゴキュっとシャンパンを飲み込んでほんの少し眉をしかめた。
やっべー!とでも言いたそうな顔で苦笑い。そういやこの2人、仲良さげだったし、覚えている限りで色々聞いてあげようかな…なんて思った。
「まぁ、そう。」
やっぱりな樹の答えに私はニッコリと微笑んだ。.