鍵を閉めてスマホを見ると着信とLINEが樹から数回入っていた。
メッセージを見て私は慌てて樹に電話をかける。このままだとここに樹が来てしまうんじゃなかろうかって。
数回コールがなった後【ゆき乃?今どこ?】届いた樹の声に「なっちゃんとこ。」素直に答えたんだ。
【聞いたよ人事の人に。夏喜は大丈夫?】
「うん。病院で点滴したけど熱下がらないからこれからお粥作って食べさせようと思って。今から買い物行ってくるから樹は心配しないで仕事に戻って。」
【それ他の人に頼めないの?】
「へ?」
思わぬ言葉を言われ、目が点になった。あわよくば財布を落としそうにすらなった。
スマホの向こう、樹の言ってる意味がさっぱり分からなくて。この病人を誰かに託してどうしろと言うのだろうか。
【俺以外の男と2人きりにさせたくねぇ。】
とんだヤキモチに嬉しいような面倒なような複雑な気持ちが交差している。
この前私が言った事は何もこの人に伝わっていなかったんだろうか?
「あの樹、なっちゃんとは間違いは起こらないってこの前も言ったよね?」
無言の樹に別にやましい事なんてないのに罪悪感すら生まれそうで。でも違う。
「なっちゃんとは誓って何もないから、不安にならないで。私は樹が好きだよ。」
【…分かんなくない?ゆき乃はそう思ってても、夏喜が違うかもじゃん。現に夏喜は俺が何度頼んでもゆき乃を紹介してくれなかった。それってゆき乃のこと好きだからじゃないの?】
なぜかヒートアップする樹に若干の面倒くささを覚えた。
どうしてそんなに気にするのか私にはさっぱり分からない。
「ごめん、樹の言ってること分かんない。なっちゃんは大事な友達だよ?疑うなんておかしい。とにかく!!今夜はなっちゃんに付き添います!また連絡するから。」
言いたい事を言うだけ言って樹の返事も聞かずには一方的に電話を切った。
馬鹿みたいになっちゃんに嫉妬する樹がどれ程不安がっているかも知らずに私は少々苛ついていたんだ。
本来ならこうして恋人に別の異性といるだけで嫌だ!と思わせる嫉妬を喜んでいいはずなのに、なぜだかなっちゃんを相手にした樹を悪く思えてしまうなんて。
歴代の彼氏が皆同じ事を言うのなら私が悪いのかもしれない。でも誰もなっちゃんに嫉妬する奴なんていなく…いや違うな。
なっちゃんの存在を明かす前にみんな終わっていたかも。
相手の気持ちに寄り添いたいとは思っているものの、なっちゃんとの友情を壊されるのは御免だと強く思ったんだ。
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