肆 涙脆い私


このドスが効いた低い声も、相手を縛るガンも、ここで知っているのは大樹だけ。

大樹は下っ端だけどうちのチームにいたらしい。私は全く覚えてないけれど、大樹の方は頭の女だった私を忘れる訳もなく、こうして今でも「姐さん」呼びされる。

まるで極道だよね、こんなの。


「出しゃばり過ぎました申し訳ございません!!」


また90度にお辞儀をする大樹の腕を引っ張って反対側に座らせた。

札付きのワルなんて言われてる男だったから、私自身も結構な生活を送っていて。

左胸の上に刻まれた暴走族の頭だった彼の名前のタトゥーを見られては絶対に嫌われる。というか逃げられる。

だからそこを求めようとする男たちを拒否ってしまうんだった。


「いやもういいから。頼むから社内ではその姐さん呼び止めてくれないかなぁ。」


私の問いかけに滅相もない!って顔で首を横に振る大樹。


「相変わらず激しいですね、上下関係。ゆき乃先輩そんな位が高かったの?」


ネコが食後にってとっていおいたメロンソーダのアイスをなっちゃんの口に入れてそう聞いた。

無言で大樹を睨み付けると「姐さんの質問以外は答える気ないから!」なんて言葉。

だからネコが「げ、うぜぇこいつ!」零れた本音に私は笑った。

でも急にクスクス笑うもんだから「何が可笑しい?」なっちゃんがバニラを口端につけたまま私を凝視している。指を伸ばしてそれをとって舐めると、ペコっと頭を下げられる。


「いいなって思って。ネコもなっちゃんも本音で私なんかと付き合ってくれて、それが嬉しいなって思っただけ。」

「え、当たり前でしょ。」

「いや俺ら逆に我慢しなきゃいけねぇ事も口に出しちゃう方だけど、ね?」


なっちゃんがクシャってネコのストレートな髪を撫でてそう言うと、ネコも、うんうん!って頷くんだ。

…あの頃の私は頭の女ってだけでみんなが逃げていったから。私と問題起こしたら自分が痛い目に合う!とか、そーいう腫れ物に触れるみたいに扱われてきたから、だから友達と呼べる人なんて誰もいなかった。


この会社に入って、二年後にネコが入社して、それからなっちゃんが今年新社で入ってきて今の関係になったわけで、このままずっと変わらない関係でいたいと思ってしまう。


「なんか25歳過ぎたら涙脆くなってるのかなぁ。…好きだよ、ネコ。好きだよ、なっちゃん。」


馬鹿みたいに涙腺が弛んでしまう27歳までのカウントダウンが近いからなんだろうか?

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