【side 夏喜】
「すいません、急に呼び出して。どうしても教えて欲しい事があって。」
飲み屋の個室で頭を下げる俺にその人はニッコリと優しく微笑んだんだ。
間もなく到着すると思って頼んでおいたビールも届いて俺たちは乾杯をした。
仕事終わりのビールはやっぱり極上に美味い。
「珍しいな、夏喜がサシで飲みたいだなんて。改めてかしこまってどうしたの?」
お通しの漬物をバリバリ食べながらビール片手に俺を真っ直ぐに見ている。
「教えて欲しいんです、ゆき乃さんの過去全部。」
大樹くんなら知ってるって思ってそう聞いた。
散々どうしようか迷ったあげく、もうここしかないって。
樹にあって俺にないもの…
あれ程までに男と長続きがしなかったゆき乃さんはたぶん過去の何かを隠していて。
キス以上を求めてくる男を断固として拒否していたのに、それを樹は難なく超えやがった。
あの日、ゆき乃さんの首についていたのは間違いなくキスマーク。
そしてそんな事できる関係なんだと思ったら、どうしよもない嫉妬心が生まれてあんな強引にキスしちゃったけど。
あの後どうすりゃいいのか分かんなくて、熱で覚えてないフリをしたらゆき乃さんもなんら気にしてない素振りだったからそのままにしている。
嫌がられはしなかったし、途中でどういうわけか受け入れてくれさえもしたけど、だからって樹との付き合いがなくなることもなく、俺たちの友情も変わらない。
―――けれど、一度芽生えてしまった恋心はそう簡単には止められやしない。
目の前の大樹くんは、少しだけキョトンとした表情をしたものの、すぐに頬を緩めて強く言い放ったんだ。
「なっちゃんはさ、実はずっと姐さんのこと、熱視線で見てたよね。」
意図も簡単に俺の心を読むなんて。
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