「で、どうなの?健太とは。」
まさか黎弥の口からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかったから噛み砕けなくて口内に残っていた鶏皮をゴキュッと飲み込んでしまった。
ゲホゲホ咳き込むあたしの口元に烏龍茶を持ってきてくれる黎弥に甘えてそれを飲んで胸を撫で下ろす。
視線の先の黎弥はまずかった?って顔をしつつもあたしの返事を待っていて。
烏龍茶を置いた黎弥は、あたしの皿にあった残りの鶏皮をパクッと一気に口に入れたんだ。
「…別にどうもないよ。」
たった一度肌を重ねただけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
肌を重ねたからと言って、かみけんくんがあたしを彼女にしてくれるわけでもなく、頻繁にLINEが来るなんてことはなかった。
あたしがLINEしても、既読になるのも遅く、だからなのか既読スルーされる事のが多い。
LINEは、かみけんくんから来るものにあたしが返事をする…方式なのかもしれない、かみけんくんの中では。
「健太に抱かれた?」
確信をつく黎弥の言葉にどう答えればいいのかも分からないから黙っていると「そっかぁ、抱かれたかぁー。あー結構ショックだわ、それ。」項垂れた黎弥は、それでも次の瞬間レモンサワーのジョッキを半分以上残っているのに一気飲みした。
ぷはー!ってカウンターからジョッキを差し出して「大将おかわり!」そう言う。
「けどさ、」
「え?」
「それでも俺、ネコのこと好きだよ。ネコが健太に惚れてるのと同じで、俺も心底ネコに惚れてる。だからネコがどんなに健太を好きでも、俺のこのどーしようもない気持ちも捨てらんねぇ。ごめんな。」
ポンポンって黎弥の大きくて優しい手があたしの頭を優しく撫でたんだ。
あたしがかみけんくんを好きなのと同じ…か。
それは、黎弥もどーすればいいのか分からないよね。
ハッキリしなきゃ!と頭では思っていても、大人になるとなかなかそれを行動に移せなかったりする。
若い時は何の遠慮もなくできていた事が、相手の都合とか考えちゃうようになる。
それが大人の恋愛なのかもしれないけれど、そんなのはあたしには向いていない。
いつでも真っ直ぐでいたい。
たった一人、好きになった人には。
「黎弥、ごめん。本当にごめん。でもあたし、やっぱりかみけんくんのこ、、」
その先は言葉にならなかった。
あまりに切ない顔であたしから顔を離した黎弥が小さく言ったんだ。
「言うなよ、そんなこと。」
カウンターの上、黎弥の手がギュッとあたしの手に重なった。
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