【side ゆき乃】
私を迎えに来た樹と一緒に会社を出た。
駅の改札前でかみけんと合流して二駅程電車に揺られて降りる。
樹がさり気なくずっと手を繋いでいてくれているから人の多い都内でも逸れることなく歩ける。
会社帰りのOL、サラリーマン、学生たちが行き交う表参道の小路に入るとお洒落な一角がそびえ立っていた。
カランと、ほんのり錆れたドアを開けるとちょっとムーディーな雰囲気のクラブチックな店内が目に入る。
そこの2階へと続く螺旋階段を上がると、大きなソファーとテーブル席があって、御予約済みの紙がテーブルに置かれていた。
ダーツ、ビリヤードが置いてあって、下では若者たちが楽しげに立食している。
「ここは、会員限定なんだとさ。」
ソファーの後ろにある柵から下の様子が見下ろせるけど、螺旋階段の前には黒服のスタッフがいて、会員証を一々確認するから普通の人は入れないってわけね。
「こんなとこ、来たことない。かみけんって何者?」
ムンズ、とその腕を引っ張って自分の隣、ソファーに座らせた。
至近距離で目が合うと、かみけんが私の肩に腕を回すもそれをスルリと回避して距離をとる。
ジロリと睨みつけてピアスのついた耳朶を引っ張ってやった。
「あら。今日は女の子、と飲みたい気分じゃないんでしょ?」
私の言葉に目をグルりと泳がせて苦笑い。
「ごめん、傷ついた?そーいうつもりじゃ。ゆき乃さんは樹の女だから、」
「いいの、分かってる。ちょっとからかっただけよ。そんなことより、ネコの事どーするつもり?」
私の言葉に大股開いて後ろに寄りかかったかみけん。
ちょっと顔に面倒くさいって書いてあるのが腹立つ。
お店のスタッフなのか、お客なのか、下からかみけんに手を振る人も多い。
完全にメンヘラだなぁ、こいつ。
「どーする?って、どーいう意味ですか?ネコちゃんは確かに可愛いし好きだけど、みんなと同じです。みんな好きなんですけど。」
さっぱり理解のできないかみけんの言葉。
みんな好きの中の一人なんて私はごめんだ。
私ならこんな男と気づいたなら即切る。
いや、その前に切られる?
こーいう男は私みたいな相手には絶対に来ないって思う。
「…じゃあ聞くけど私は?もしも私がかみけんに今夜だけ相手して?って言ったらどーする?」
黙って聞いていた樹が身を乗り出してかみけんの行動をジッと見ている。
何かあった時咄嗟に動けるようにって守られているみたいで、こんな時なのにキュンとしてしまう。
クイッと顎に指を当てられ、一瞬でかみけんの顔が目の前に来た…―――と、同時、階段を上ってくる足音にかみけん越しに視線を向けると、知った顔…ネコと目が合ったんだ。
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