お店の中に戻る気にはなれず、大樹が中に入ってくれるって言ったから私は樹と2人、マースの待つ家に帰ってきた。
ネコは、大丈夫だろうか?
なっちゃんはネコと黎弥に会えただろうか?
「樹…」
「大丈夫だよ、黎弥くんが一緒だったし。別にゆき乃が悪いわけじゃない。タイミングが悪かっただけ。それにこれでネコさんもよく分かったでしょ、健太さんがそーいう男だってことが。これでよかったんだよ。…もう泣くな。」
樹が優しいから、甘やかすから泣く気がなくても涙が零れ落ちてしまう。
確かにかみけんのことは後々考えるとこれでよかったのかも…そう思えるのかもしれない。
だけどネコはなっちゃんにもいい顔してるって言った。
それはネコから見て私が樹と付き合っているのになっちゃんにも気を持たせる態度をとっていた…と思われているんだって。
あのキス…バレてる?
もしかして覚えてた?
そんなわけないと思うけど、ネコの言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
私の中で無かったことにしたあのキスがふつふつと蘇ってきそうで、頭を振った。
「樹は、どうしてこんな私に優しいの?」
馬鹿みたいな質問に、 眉毛を下げた樹はソファーの上で私の腕を引いてグッと抱き寄せた。
ふわりと香る樹の香水が鼻を掠める。
「そんなの決まってんだろ。ゆき乃を愛してるから。」
キョトンと見つめたのは、初めて聞いたから。
樹からの「愛してる」を。
すごい顔していたのか、樹が私の頬を指で撫でてクスって笑う。
「あれ?言ってなかったっけ?そんな初めてみたいな顔、」
「き、聞いてない!好きだは何度も聞いたけど愛してるは、初めてよ。」
ギュッと強く抱きしめて「ごめん。今更で。でもずっと思ってた。」そっと距離をとっておデコをコツっとくっつける。
「心配しなくても、俺が守るから。ゆき乃は誰にも傷つけさせない。」
ギュッと樹に抱きつく。
「私も愛してる。」
小さく呟くと樹が嬉しそうに笑った。
それからちょっとだけ遠慮がちに私を覗き込む。
「こんな時、なんだけど。言ってもいいかな?」
「え?」
「ゆき乃が欲しい。今すぐに、」
トサッと後頭部を抱えてラグマットの上に押し倒された。
樹の唇が首筋にうつると身体がビクンとする。
この温もりがないともう、生きてゆけない。
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