肆拾捌 安心できる温もり


【side 夏喜】


結局朝になってもゆき乃さんからのLINEの返信はなかった。

こんなに眠れない夜は初めてだった。

大樹くんに聞いたゆき乃さんの過去はわりと壮絶で、俺の想像を遥かに超える過去だった。

何よりその頭の男に寄ると、ゆき乃さんって人はとにかく身体の相性が良くて、セックスがめちゃくちゃうまいって。

だから一回でも抱いてしまったら、男って男はその沼にハマってしまうんだろうって。

それを避ける為に、左胸に自分の名前を刻ませたって。

それを見て他の男がドン引きするようにって。

そこまでしたのにゆき乃さんは高校卒業と同時に族から足を洗って姿を消したと。

元カレと別れた理由は定かじゃないけど、ゆき乃さんが一人でいなくなったって言ってた。

だから胸の傷を見られまいとデートで身体を求めてくる男を拒否していたら、長続きしなかったという事もつじつまがあう。

確かに他の男の名前を刻まれていたら引くのかもしれない。

けど樹は違った。

酔った勢いもあったと思うけど、それすら克服して今もゆき乃さんを独り占めしているんだって。


「クソッ!」


遅すぎる恋の始まりに、自分の馬鹿さ加減に反吐が出る。

ベッドの上では無意識でなのか、泣き疲れたネコを寝返りを打った黎弥くんが抱きしめるように腕枕をして寝ている。

ネコもそれを受け入れているように見える。

付き合い始めの頃は、よくそうして寝ていたんだろうなぁって姿だった。

この2人はなんだかんだで、うまくいってほしいと思える。

相手が健太さんなら話は別だけど、黎弥くんなら安心できる。

そういや昨日泣きながらネコがゆき乃さんを罵声していたっけ。

健太さんとゆき乃さんがキスなんてする訳ねぇのに。

変なとこたまたま見たんだろうって。

でもここんとこ健太さんと進みたくても進めないもどかしさで壊れそうだったネコは、それが全部ぶっ壊れちまったんだろうなー。

黎弥くんの腕枕で安心したように眠るネコの髪を撫でて、俺は煙草を吸い終えると黎弥くんの部屋を出た。



「なっちゃんとゆき乃先輩、あたしに隠してることあるでしょ!?2人の空気がいつもと違うことぐらい見てれば分かるよっ!」



雨の中ネコが言った言葉に、大樹くんの言葉が重なる。

たった一度のキスだったけど、ゆき乃さんのキスはたまらなく気持ちが良かった。

危うく昇天しそうになるくらい。

これから、どうしたらいいのか自分でも先が見えないなんて、こんな事は初めてだった。

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