【side ネコ】
目が覚めたら自分の部屋じゃなかった。
天井も、布団も、匂いも…あたしのものじゃなく、全部黎弥のもの。
あぁなんだ、黎弥の部屋かって。
付き合いたての頃はよく来ていたこの部屋。
ムクリと起き上がるあたしを無意識で抱き寄せる黎弥。
「離して、トイレ行くから。」
起きているのか寝惚けているのかほんのり力加減が弱くなった黎弥から離れてトイレに入った。
洗面台で手を洗っていると見慣れた歯ブラシと化粧水。
キッチンの戸棚にはお揃いのハート模様のカップが2つ。
黎弥と付き合った記念にって、買ってくれたんだっけ。
至る所に変わることなくあたしの残像があるようで恥ずかしい反面、切なかった。
まだベッドで眠っている黎弥は幸せそうな顔で。
絶対的に優しい人が好きなあたしの恋人の条件を難無くクリアしていた。
加えて面白くて男らしいお祭り男とあらば、黎弥って人を好きになる!って、あの頃は思っていた。
「んぅーネコ…―――ネコッ!?」
ペシペシってベッド周りを手で摩っていた黎弥が、あたしがいない事に気づいて飛び起きた。
でもキッチンの椅子に座っていたあたしの姿を見るなり安心したな顔で「なんだ、よかった。いなくなっちゃったかと思ったよ。」…どうしてそんなに優しいのよ?
黎弥のところまで歩いてベッドに腰掛ける。
「おはよ!」
そう言ってすんごい寝癖のついた顔を頬にちゅ、とくっつける。
可もなく不可もなくなあたしを見つめて「どした?」って。
昨日のことを思い出して朝から凹んだ。
なっちゃんも一緒にいたと思ったけど、ここにはいなくて。
「なっちゃんまでゆき乃先輩に取られちゃうのかなぁ、あたし。」
「ネコ…」
「本当は分かってるの。あたしだって中途半端に黎弥となっちゃんを傍に置いてる。心ではかみけんくんが好きって思ってるのに、こうやって平気で黎弥のベッドで寝ちゃうし、なっちゃんと一緒に寝る事だってあるの。だからゆき乃先輩の事なんて言えないよね。…あんな事なんで言っちゃったのよ、あんな馬鹿みたいなこと…」
頭の中ではどれだけ理解していても、心が追いつかない事もあるんだって。
それが恋だと、こんなにも辛いんだって。
「ゆき乃さんと健太のキスだけど、違うと思うぞ?冗談でゆき乃さんがキスなんてするわけないし、どーせカマでもかけて健太がからかってキスしようとしたんだと思う。俺の経験上の健太ならやりかねない。だからネコが気にすることねぇよ。ゆき乃さんに言った言葉も、ネコの本心じゃないってゆき乃さんは分かってるよ。お前らの友情はさ、そんな簡単に壊れちまうもんじゃねぇだろ!な?」
やっぱり優しいな、黎弥。
かみけんくんとゆき乃先輩のキスも、それで頭に血が登った馬鹿なあたしの発言も、ちゃんと受け止めてくれる。
あたしには出来ないよ、そんな事。
どれだけかみけんくんを好きでももう、無理だと思うしかないのかもしれない。
――そして、今隣にいる黎弥って存在があたしの中で少なからず大事だと思える、そんな瞬間だった。
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