【side ゆき乃】
週明け。
なんとなく会社に行くのが億劫だった。
こんな気分は入社してから初めてで。
ネコからのLINEもなく、私からもしていない。
なっちゃんには「ありがとう」ってお礼のスタンプを送ったきり、それで止まっていた。
樹のマンションから揃って出社。
普段は電車だけど、今日は私が一緒だからって車通勤してくれるって、運転している樹を横目に手中のスマホが鳴らないか気にしていたんだ。
ホテル業界に務めている私たち。
つい目線は駅前のホテルだったり建物を捉えてしまうのは職業病だと思う。
「そういえば、名古屋に支店作るって噂、ほんと?」
日差しが眩しくなってきたこの時期、樹はサングラスをかけて運転していて、サングラス越しでもかっこいいなぁなんて自惚れそうになる。
「ほんと、ほんと。本社から選抜チームが名古屋に行く事になるって。…人事部も2人ぐらい行くらしくて…」
そこまで言うと樹は言葉を止めた。
人事部って、なっちゃんの部署であって、え、まさかね?
私の顔色を見ていたのか、瞬きを繰り返す私の頬に手を触れると「夏喜が行ったら寂しい?」小さく聞いた。
トクンと胸が大きく高鳴る。
今までなっちゃんと離れるなんて考えたことがなかった。
「…そんな顔、するんだ…ゆき乃。」
答えを出せない私を見て樹がまたボソッと呟くと、苦笑いで顔を前方に戻した。
違う…って否定しなきゃなのに、なっちゃんが本当に名古屋に行っちゃったら…
―――――寂しいに決まってる。
結局、会社に着くまで無言だった。
樹に、自分の心の中を見透かされたみたいでなんとも言えない複雑な気分だ。
「樹、さっきのだけど…―――樹は傍にいてくれるよね?」
地下の駐車場を出て、地上へのエレベーターを待つ私は隣の樹を見つめる。
「当たり前でしょ。さっきは意地悪なこと言って悪かった。」
キュッと樹が手を握ってくれて、心底ホッとしたなんて。
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