【side ゆき乃】
ボロボロに泣いているネコを見ると、これで良かったのか疑問すら浮かんでしまう。
私が樹にネコの相手について相談したから樹がわざわざこうしてくれたんだと思う。
思うんだけど…――「ネコ。仕事できる?」強く言えないのは、こんなにもネコが泣いてるから。
ぴえん…ってLINEではよく泣きのスタンプを送ってきたりするけれど、実際こうして大泣きしているネコを見るのは初めてだった。
大人になってから恋愛であまり泣くという事をしていなかった私からすれば、全身全霊でかみけんを好きだと言うネコを少なからず羨ましいとさえ思った。
勿論樹のことは大好きだし愛しているけれど、この想いより上回わっているのか定かじゃない。
そんなもの、図るもんじゃないとも分かっているけれど、こんな風に誰かに愛されたら幸せなんだろうか…なんて客観的に見ていた。
「ゆき乃さん。ネコは俺がついてるから、仕事行ってください。」
あの場でよくかみけんを殴らなかったなーって黎弥には感心したけど、相当イラついていたのは確かだ。
でも、黎弥はネコには極上に優しいから大丈夫だよね。
「送るよ、ゆき乃。」
樹が私の肩を抱いて広報部の入口へと歩を進める。
振り返ったネコはまだメソメソ泣いていて、黎弥がネコの零れ落ちる涙を一つ一つ指で拭って優しく抱きしめたり頭を撫でたり…
「うまくいくといいけど、黎弥と。」
心から思う。
どんなに傷ついても同じ朝はこない。
どんなに辛くても前に進むしかない。
そうやってみんな強くなっていくんだと。
目の前にいる黎弥の愛にネコが気づいてくれる事を願うしかない。
「大人の恋は、なかなか辛いわね。」
しみじみ言うと樹が視線を合わせた。
そして、
「あれぐらいしなきゃ健太さんはダメだよ。あれでも響いてるか分かんねぇけど。」
キョトンとした私を見つめる樹の瞳は優しい。
他の女の前でできればその顔はして欲しくない。
「え?」
「ごめんゆき乃。散々黎弥くんって言ったけど、健太さんが本気になるのをちょっと見たいかも俺。あんな馬鹿な恋愛はできれば止めてもらいたい…。」
「え?」
「もし本気になれば、健太さんは必ずネコさんを奪いにくる。」
…なにそれ。
このまま黎弥とでよくない!?
そう脳内では思う反面、黎弥といても笑顔一つ出ないネコを不自然に思うしかなくて。
自分の恋愛と比べるのもよくないけれど、やっぱりネコには幸せであってほしい。
お互いに心から笑える相手に出逢えるのは、奇跡なのかもしれないね。
何も言えないけれど、樹の手をギュッと握ったら小さく笑ってくれた。
言葉にせずとも伝わる気持ちは嬉しい以外の何物でもない。
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