【side 樹】
さっき別れたばかりのゆき乃がまた俺の部署に今度は一人で現れたからなんとなくだけど、嫌な予感が頭を過ぎる。
「樹…、」
スーツの裾をちょこっと摘んで俺を見つめるゆき乃はこう言っちゃなんだけどめちゃくちゃ可愛い。
冷静さを保ったままゆき乃の手を握って「どうした?」そう聞くと泣きそうな顔でその手を握り返した。
「名古屋支店のメインチームに選ばれた。…来週丸々一週間名古屋出張になった。…なっちゃんと2人で。」
なるほど、名古屋な。噂はあったしそこは納得。
けど後半のゆき乃の言葉を聞いて愕然とした。
一週間もゆき乃に逢えない事は勿論、夏喜と一緒だなんて。
「それからね、樹にはちゃんと言っておきたいと思って言うんだけど。…なっちゃんに好きだって言われた。」
「え?」
聞き返した俺に黙り込むゆき乃を見て今の言葉が冗談じゃねぇと理解した。
まぁ冗談で言うことじゃねぇけど。
予感は的中だった。
一番恐れていた事が目の前で現実となって俺に叩きつきられた。
笑えねぇ。
やっぱり夏喜はゆき乃を…
小さく溜息をつくとゆき乃が俺の前でしゃがみ込む。
椅子に座って広げた俺の足の間から顔を出して太腿に手を置く。
「ごめんね。」
「うん。」
「樹と別れる気はないから、信じて。」
「うん、信じてる。」
気にすんな、頑張ってこい!
なんて背中を押せるぐらいの余裕がない自分に反吐が出そうだなんて。
―――夏喜、頼むから持っていくなよ、俺の女。
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