「樹、それ代わる。俺がやる。」
絶不調だった。
たかがゆき乃の名古屋出張程度…と呼べるものでもないのかもしれないけど。
一、社会人として恋人とのトラブル程度で仕事に支障をきたすなんて許されない。
自分では大丈夫だって思ってこなしているけれど、どうにもケアミスが続いて等々健太さんに止められた。
案の定コピー機の手元にある枚数では桁違いの数字が打ち込まれている。
無意識で俺が押したんだろうけど、数秒前の記憶すら飛んでいる。
なんならコピー機に添えられた俺の手は軽く震えている。
もう十分時間は経っているというのに。
男としても、人としても不甲斐ない。
けれどそれぐらいゆき乃は俺の中で大きい存在なんだと改めて思えた。
確かに最初は綺麗な外見が好みだった。
いざ話してみると思いの外笑うと幼くなってそのギャップが可愛らしくて目が離せなくて…
たった一度舞い降りたチャンスを逃すことなく物にした。
まぁ多少は強引だったけれど。
それでもゆき乃は俺の気持ちに答えて同じように愛してくれている。
何が不安だというのか?
「樹さ、そんなに夏喜が怖いの?」
見兼ねてなのか健太さんの大きな瞳が俺を真っ直ぐに見ている。
さっきの話、確実に聞いてたんだろうって思う。
このメンヘラにして貰う助言なんてあるのだろうか?
なんて思うけれど、だせーけど到底一人では抱えきれなくて。
「…怖いです、すげー。」
言葉にすると余計にその思いが強くなる気がした。
だけど健太さんは首を傾げて不思議そうな顔。
あんたはこんな不安な気持ちになった事ないのかよ?ってちょっと苛つく。
「なんで?信じて…って言ってたじゃんゆき乃さん。信じればいんじゃないの?」
こんな時だけ馬鹿みたいにピュアな発言をする健太さんにやっぱり若干苛つく。
「あの健太さん。信じてたって怖いもんは怖いです。俺はあなたと違って本気でゆき乃を愛してますんで。」
悔しかったら言い返してこいよ。
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