【side ゆき乃】
まさか樹が結婚を意識しているなんて知るはずもなく、私はなっちゃんの隣、新幹線に乗っていた。
「樹嫌がってた?」
窓の外を眺めていた私にそんななっちゃんの声が届いた。
ゆっくりと振り返るとなっちゃんと目が合う。
顔は普通にかっこいい。
タッパもあるし、私の前では懐っこい。
いい事も嫌な事も口に出すなっちゃんと一緒にいるのはすこぶる楽だ。
「そうは言ってないけど、たぶん。」
自分がって想像しても、例えば樹と仲のいい女がいて、その女が樹の事を好きで、仕事だけど2人で一週間出張となれば気が気じゃない。
きっと私はネコとなっちゃんに泣きつくんだと。
こっちのが歳上だからって笑って「いってらっしゃい!」なんて言っちゃうかもしれない。
そんな自分に後悔して落ち込んで…――目に見える。
樹が実際どうなのかは分からないけれど、少なからず笑顔なんて見れなかった。
でも、信じるって言ってくれたから、その言葉を私が信じるしかない。
「だよなぁ。反対だったら凹むもん俺。…でも俺はチャンスだから、一週間ゆき乃を独り占めするのも初めてだし。樹には悪いけど、死ぬほど喜んでる。」
ニッて笑って私の髪を優しく撫でるなっちゃん。
こういうスキンシップ的な物は前からだから慣れっこだった。
ネコにだって同じようによく頭を撫でていた。
だからこれくらいでドキッとするわけないのに。
「一週間ずっと甘夏なの?」
ドキッとしたのはその言葉のせい。
普段言わないような、クールななっちゃんの口からは到底出てこないような甘い台詞がついてるってだけで、触れられた場所が燃えるように熱く感じるなんて。
私の言葉にプッて笑ったなっちゃんは、その笑顔のままコツって頭を横にくっ付けた。
「そ。ずーっと甘夏。ゆき乃の前では甘夏全開でいくから、覚悟しといて。」
キュっと手を握ってカップル繋ぎ。
これもわりと慣れっこだったけれど、やっぱりドキドキしちゃう。
四六時中甘夏は危険!…そう思って手を離そうとすると、余計に強く握られる。
「なっちゃん手は、」
「やーだ。こんなの前からしてたでしょ!俺絶対離さないから!」
ギュっと強く握るなっちゃんに、悔しいけどドキドキが止まらないなんて。
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