新しくホテル内に入れるCafeを…との事だけれど。
「コメダ珈琲じゃありきたり?」
「却下。社長はそんなの望んでないでしょ。」
単なる下見だから私もなっちゃんもあくまで私服だった。
今回は何の交渉もないから会社のことは考えずに、観光してて楽しい場所を見つけてこいだの、なんだか遊びに来ているのと変わらないものの、なっちゃんが隣にいるのはめちゃくちゃ心強かった。
「俺のバイト先行く?」
「え?なっちゃんなんのバイトしてたの?」
「唐揚げ屋。」
「行く!」
スッと差し出された手にちょっと戸惑いつつも握ると、なっちゃんは「ゆき乃の手、柔らか。」…ちょこちょこ呼び捨てされるのがくすぐったい。
なんか、付き合いたてのカップルみたい!なーんて密かに思っていたんだ。
「あーでもそろそろチェックインしとく?荷物持ちっぱだと不便。」
腕時計はそろそろ15時を回る。
駅ナカにあるホテルを取ったからとりあえず新幹線の疲れを取りたいのは山々だった。
「うん、そうしよ。」
なっちゃんに腕を引かれてホテルのロビーでチェックイン待ちの列に並んだんだ。
…みんな何しに来てるんだろ?
観光?仕事?ライブ?
サラリーマンが多いのかな?って思ったけど、案外旅行客がいっぱいで、なんとなく人間観察をしていた。
「海行きたいなぁー。後でバイクでも借りて行こうか?」
あんまり海を見て育った訳じゃないから、なっちゃんの呟きにパァーっと目を輝かせた。
「うん、行きたい!」
「やっぱさ、沖縄とまではいかないにしろ、オーシャンビューはいいよね?」
なっちゃんがフロントに手をかけて私にこっそり話しかけた時だった。
「…夏喜くん?」
可愛らしい声は目の前のフロントガールからで。
ちょっとギャルっぽいその子は、なっちゃんを見てプライベート感丸出しでそう呼んだんだ。
気づいていなかったらしいなっちゃんは、名前を呼ばれて「あ、莉子。」…同級生?
それとも、―――元カノ?
ほんのりなっちゃんの頬がピクついたのを見逃さなかった。
あんまり会いたくなかったって顔をしているのも。
フロントガールも私を見定めるみたいに見ているから分かった。
絶対この子、なっちゃんの元カノだって。
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