【side ゆき乃】
夢にまで見ていたプロポーズが、こんな形で降ってくるなんて。
浮気女の私に、そんな言葉を貰う資格なんてもう1ミリもないというのに。
樹はきっと分かっている、この出張という名の浮気旅行を。
勿論最初はそんなつもりじゃなかった。
なっちゃんに告白はされていたけれど、樹と別れるつもりなんてなくて。
なっちゃんの事はめちゃくちゃ大好きで、それがlikeだと思って今まできた。
だけどあの日、樹になっちゃんがもし名古屋に行く事になったら?と。
「夏喜が行ったら寂しい?」…そう聞かれてすごく寂しくて。
寂しいなんてもんじゃなくて。
今の生活の中で、私の傍からなっちゃんとネコが離れる事を思うと心が壊れそうだった。
その時にもしかしたら私はなっちゃんを好きなのかもしれない…そう思ってしまったんだ。
そう思った私はその日からなっちゃんの事をたぶん、likeじゃなくてLoveで見てしまっていたんだと思う。
「ごめんね樹。…なっちゃんを愛してる。なっちゃんの事が好き。本当に本当にごめんなさい、」
樹の腕を掴んでぎゅうっと強く握る。
その手を上から掴む樹。
顔を上げるとなんとも言えぬ顔で私を見下ろしていて。
反対の手が私の頬を掠める。
「樹…?」
「…今は何もに聞きたくねぇ。頼むから一緒に帰ってよ。」
強引に、でもなく、優しく引き寄せる樹に胸が痛い。
「誕生日も祝ってあげてなかったろ、ごめんな。」
誕生日なんて、そんなのいいのに。
なっちゃんに視線を向けるとそれでも「大丈夫。」って顔に書いてある様に思えた。
散々刻まれたなっちゃんの愛してるが、私の身体に残っているから迷わない。
「今日は樹と帰ります。」
そう言うと「分かった。」小さく頷くなっちゃん。
離れたくないけど、ちゃんと樹と話さないとダメだ。
芽生えてしまったこの気持ちを、樹に分かってもらえない限り、なっちゃんのところにはいけないんだと。
いつまで経っても平行線のままではいられない。
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