捌拾壱 泣いていいよ


【side ネコ】


ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

瀬口邸のここ、先程なっちゃんが沢山のお土産を抱えて帰ってきた。

その顔は喜び満載かと思いきや若干疲れきっているようで。

黎弥がシャワーを浴びているのをいい事になっちゃんを部屋に通してその表情のわけを事細かに聞いていたんだ。

ストーカーと化した藤原くんに待ち伏せされて、ゆき乃先輩を連れて行かれた事を酷く悔やんでいる。

赤福をヘラでパクつくあたしの前で大きな身体を折り曲げて項垂れている。


「黎弥ー誰か来たよ!」


ちょうどシャワーからあがった黎弥が玄関へ行って「はいはーい!」なんて呑気な声でドアを開けた。

ザァーって雨の音が途端に聞こえて、「おい、夏喜っ!!ネコっ!ゆき乃さんだぞっ!!」そんな声に急いで立ち上がるあたしを通り越してなっちゃんが走った。


「ゆき乃っ!!!なんだよ、ずぶ濡れじゃないかっ!!何やってんだよ、樹の野郎、クソったれ!」


いやあんたそれ言えないよね。

藤原くんが言うならともかく、なんて思ったけど黙っていた。

傘もさしていなかったのか、全身ずぶ濡れで震えたゆき乃先輩が声を殺して泣いているのが分かったから。

雨の雫に混ざってゆき乃先輩の瞳から次々と零れ落ちる大粒の涙。


「なっちゃん、ネコ、ごめんね。…来ちゃった。」


昭和のトレンディードラマの名台詞のようなゆき乃先輩の震える声にあたしまで泣きそうになった。

びしょ濡れのゆき乃先輩を抱きしめるなっちゃんにすごくすごく愛を感じる。

傍から見たらあたしもこんな風に黎弥に愛されているんだろうか…なんてこんな時に客観的な事を考えてしまう。

すぐに黎弥が持ってきたバスタオルでゆき乃先輩を包み込んで部屋にあげる。

黎弥は上裸のままゆき乃先輩のキャリーバッグや荷物を玄関にあげてパタンとドアを閉めた。

藤原樹、事と次第によっては許さない!なんて思うあたしにゆき乃先輩が小さく告げた。


「ずるいよね女って。泣いちゃダメって思って樹の前では我慢したんだよこれでも。樹もこの雨の中だったら泣いてたのかな。…泣いちゃダメって思うのに止まらないよ。」


うっ、うっ…って嗚咽を漏らすゆき乃先輩は、なっちゃんの背中で全く見えない。

その声だけが聞こえてくる。


「もう我慢するなよ、泣いていいから。ごめんゆき乃にだけ背負わせて。ほんとにごめん。…でも渡せない、絶対に。」


なっちゃんの覚悟は半端ない。

そしてゆき乃先輩のなっちゃんへの気持ちも。

みんな、みんな、本気なんだって。

楽しいだけの恋は楽でいいかもしれないけど、その悲しみも辛さも二人には乗り越えて欲しい。

幸せな未来はあると、信じたいよ。

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