ここで俺達が話し合った所で何も解決はしない。
気を張っていたんだろう。
ネコのいるここに来てゆき乃はウトウトし始めたからネコと一緒に黎弥くんのベッドに寝かせた。
ふぅーと息を吐き出して立ち上がる俺に黎弥くんは当たり前に着いてきてくれる。
玄関脇に置いてあった合鍵を迷うことなく俺に渡してくれた。
「俺は樹も夏喜もどっちも好きだからどっちつかずな事は言えねぇ、悪いな。…けど、ゆき乃さんは夏喜を心底信用しきってるのが分かる。お前の愛はホンモノだよ。俺は俺のやり方でネコの心を掴み取るからさ!」
ポンッと兄貴に背中を押されて気合いが入る。
八方美人な言葉を言われたとしても真実味はないけど、こうやって樹の事もちゃんと守っている黎弥くんはやっぱかっこいいと思えた。
俺もいつかゆき乃が浮気をしたら許せるのか?と思うと自信はない。
でもそれ以上に、ゆき乃と一緒に居たい…って気持ちがあるのは確かだ。
「ありがとう、ほんとに。」
「行ってこい!待っててやるから!」
傘をさしていざ、樹との待ち合わせ場所に乗り込んだんだ。
◆
「大樹くん…」
時間も時間だったし取り急ぎファミレス。
中に入ると既に樹は来ていて、その隣、大樹くんの姿があった。
思わず視線を樹に向けると吸っていた煙草を揉み消した。
「一応止めてもらうようにって、俺が呼んだ。全部知ってるし、大樹さんは。」
なるほど、名案だ。
この人はゆき乃の事も分かってるし、俺であり樹の気持ちもよく分かってる。
普段から懐いている俺達は、大樹くんからしたら可愛い弟の用なものかもしれない。
黎弥くんといい、大樹くんといい、いい兄貴だよ。
「こんな時間に呼び出して悪かった。」
「どーせ眠れねぇよ、俺も。」
散々脳内で何をどう言えばいいか考えていたものの、結局のところ樹に伝えたい言葉なんて決まりきっている。
ゴツって頭がテーブルに着くぐらいに俺はお辞儀をして「本当にごめん。」そう言った。
当然ながら樹は無言だ。
それでも謝り続けるしかないんじゃないかって思う。
「…ゆき乃は?」
「黎弥くんとこで、ネコと一緒にいる。」
苦い顔をしているのは、ゆき乃に冷たく当たったからなんだろうか?
「…別れられるかよ、今更。」
絞り出した樹の声は覇気がなく、切ない。
それでも別れて貰いたいんだ、ごめん。
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