「とりあえず珈琲でいい?」
大樹くんが気を利かせて席を立つと、ドリンクバーへと歩いて行く。
その後ろ姿をしばらく眺めていた。
樹が2本目の煙草に火をつけるとまるで自分を落ち着かせるかの様、煙を吐き出す。
「いつから?」
それから小さくそう聞いた。
顔を上げた俺を今度は真っ直ぐに見ている。
いつからか?なんて、そんなの分からない。
気づいたら、いや、最初から?
「…たぶん、ずっと前から。樹の言う通り、ずっと俺はゆき乃を愛してた。」
「ズルくない?今更言うの。今更ゆき乃が欲しいなんて勝手すぎる。」
責めるような、睨みつけるような樹に小さく頷く。
「まぁでも、気づくタイミングがなっちゃんは遅かった。でもその遅さがいっちゃんを傷つけた――。2人が姐さんに本気なのは俺も重々分かっている。――姐さんはね、めちゃくちゃアッチがうまいの。だから俺らが誰も敵わないであろうトップの人と付き合っていたんだ。でもみんな本当は姐さんが欲しいと思ってた。そーいうレベルの人なの。ザラにあったよ、そーいう姐さんの取り合い。その度に姐さんはいつも辛そうで。あの頃はまだみんな若かったしどこまで本気なのかも分かってなかったと思うの、姐さん自身もね。――でも今は違う。もう2人も姐さんも十分大人だ。」
大樹くんの言葉は真実味があって樹には辛いだろうと思えた。
きっと大樹くんも黎弥くんと同じでどっちの味方って訳じゃないと思う。
しいていうなら―――ゆき乃の味方だ。
だけれど、樹の存在があればこそ、俺の気持ちが爆発したわけで。
「いやごめん。樹とゆき乃が付き合ったことでゆき乃への気持ちが分かった!っていうか。2人が付き合わなかったら俺は一生この気持ちと向き合わなかったかもしれない。だから―――樹のお陰だよ。」
「なんだよそれ、とんだピエロじゃねぇか俺。」
頭を抱え込む樹に大樹くんがそっと触れる。
「いっちゃん。でも俺思うんだけどね、姐さんがこんなに本気で好きだって幸せそうな顔したのは、いっちゃんに愛されてからだと思う。確かにそれでなっちゃんは自分の気持ちに気づいたのかもしれないけど、いっちゃんがいなかったら姐さんはなっちゃんにもいかなかったんじゃないかな?」
―――必然ってことだろうか?
樹ってステップを超えて俺の所にきてくれたゆき乃。
「…それでも俺、ゆき乃が好きです。絶対に別れたくないです。」
ネコ相手に同じような事を言って酒に潰れる黎弥くんを散々見てきた。
さっき、自分で黎弥くんに一緒じゃない、なんて偉そうに言ったけど、一緒かもしれない。
第三者の気持ちが自分に重なるだけでそれはこんなにも違う結末を望んでしまうものなんだろうか。
目を伏せたら涙すら零しそうな樹を前に今更ながら自分たちの罪の重さを知ったなんて。
見えない平行線に終わりは来るのだろうか…
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