【side ゆき乃】
目が覚めたら黎弥の部屋だった。
昨日の事を思い出そうとすると酷く頭が痛くて目も重たい。
隣で寝ているネコを起こさないようにベッドから降りるとトイレに入った。
樹…すごく怒ってた。
あんな怒ってる樹は見たことがない。
当たり前だよね、怒るよね、そりゃ。
思い出すだけで涙が溢れそうでトイレから出て手を洗うと床に転がって寝ているなっちゃんの横に私も転がった。
一週間、この人にこれでもかってぐらい抱かれたのにまだ全然足りない。
そっとなっちゃんの腰に触れた腕を背中に回して抱きつくとなっちゃんが薄ら目を開けた。
「ゆき乃?どうした?…身体痛くなるよ、ベッドで寝なきゃ。」
「ここがいい。」
なっちゃんの胸に顔を埋めてグリグリ動かすとゴキュっと生唾を飲み込む音が聞こえた。
「なっちゃんの体温が心地いいの。」
小さく言うとクスって笑いながら私を胸に抱きしめてくれる。
トクン、トクン、と脈打つ心音に耳を澄ませて目を閉じると何とも幸せな気持ちになった。
ほんの一時、樹との事も忘れてなっちゃんに抱きしめられてもいいよね?
目が覚めたらまたちゃんと考えるから。
…考えても答えは変わらないけど、それでも樹がいいって思うまで頑張らないといけない。
浮気した罰はちゃんと自分で受けなくてはならない。
そう思って眠りに着いた。
◆
「あのさ、俺んとこ来ない?」
「え?」
二度目に目覚めた後、ネコがご飯を作ってくれて一通り準備して黎弥の家を後にした。
とりあえず荷物を家に戻さないとって事で家に向かうけど終始無言で。
駅の改札を入ろうとした私になっちゃんがそう声をかけた。
人が行き交う中、止まる私の腕をギュッと握るなっちゃん。
「一人にさせたくない。」
「なっちゃん…」
心配してるの?樹のことに戻らないか?って。
「なっちゃんてば、心配性?」
笑いながら見上げたなっちゃんは至って真剣で。
ちょっとだけ顔を逸らすと小さく呟いた。
「ごめん嘘。俺が離れたくないの。」
…握られた手に力が篭る。
恥ずかしそうななっちゃんの想いに私の心も温かくなっていくようだった。
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