それからどうしたのか覚えていない。
覚えていないけれどあたしは名も知らぬバーで一人強くもないお酒を飲んでいた。
味も何も分からないけどひたすら飲みまくって死にそうなあたしの隣、カタンと誰かが座る。
横を向く元気すらないあたしに「何してんすか、こんな治安の悪い場所で。」聞き覚えのある声に重たい頭を上げると、ゆき乃先輩の彼氏…もとい、元カレ?の藤原くんが呆れた顔であたしを見ている。
「あ、かみけんくんが、かみけんくんがね、知らない女と一緒で、あたしとの約束覚えてなくて、」
言葉にすると今まで溜まっていた涙が堰を切って溢れ出てきて止まらなくて。
泣き出すあたしをギョッとした顔で見ていた藤原くんが、しばらくしてからフゥーと息を吐いた。
「知る勇気はあります?健太さんの本音。」
この人は何か知ってるんだって。
縋るように腕を掴んでコクッと頷く。
カウンターにあったお酒を一気に飲み干した藤原くんは、真剣な顔であたしに告げたんだ。
「ただの心変わりです。確かに1週間前の健太さんはネコさんの事を好きでしたよ、初恋かってくらいに。けど出会ったんですって、運命の相手に。一目で恋に落ちて相手も同じ気持ちなんて奇跡だって。…好きになっちゃったんなら仕方ないです。仕方ないけどやり切れねぇ。分かるよ、ネコさんの気持ち。」
いつの間にか藤原くんは自分たちと重ね合わせていて、頭を抱えている。
「たった1週間でさマジで人の気持ちってそんなに変わるの?ってくらい。…健太さんもゆき乃も、今まで何だったんだよって。」
藤原くんが自分の話に摩り替えるけど、結局かみけんくんはあたしの元に来ないんだって。
本当に幸せだと思っていた1週間はなんだったんだろう?と。
でも――――――
「やっぱり今の藤原くん、カッコ悪い。」
カチッと煙草に火をつけて吸い込むとあたしを冷めた目で見つめる。
どーでもいいって顔してる。
「可哀想だね、辛いね、ってそう言えば満足?」
「はぁ?」
「いい加減認めなさいよ、なっちゃんのこと!ゆき乃先輩もなっちゃんも苦しんでる。あんたがそんな態度だから。あたしはかみけんくんが幸せならそれでいい。好きな人の幸せを願えない人になんて絶対になりたくない!!あんたなんかと一緒にしないで!」
鞄から財布を取り出して一万円をカウンターに置くとあたしは椅子から降りて歩き出す。
急に立ったもんだから酔いが身体を充満して目が回る。
足元フラフラで壁に手をつかなきゃ歩けない。
助けて誰か、助けて、黎弥!!!
カランと外側から開いたドアの前、目を真ん丸に見開いた黎弥がそこにいた。
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