【side 黎弥】
家までの距離すら焦れったくて、駅近のラブホにネコと入った。
普段なら迷う部屋もボタン一つで目に入った場所を選んだ。
鍵をとって狭いエレベーターの中、我慢しきれずネコに口付ける。
「んうっ、れーやぁ、」
甘ったるいネコの声にテンションが上がらずにはいられない。
頬に手を添えて抱き抱えるようにキスをしながらキングサイズのベッドに押し倒して尚もキスを繰り返す。
待ったも、イヤも、言われることがなくてちょっと拍子抜けしてまう。
気持ちの樽はいっぱいいっぱいで溢れているけれど、それでもネコの気持ちを無視してまでやすつもりはさらさら無い。
「お前、いーの?」
「なに、が?」
「…俺として、いいの?」
「今更言う?ここまできて。」
なんていうか、女はこういう時度胸がすげぇと思う。
俺の方が緊張しちゃって、どうすりゃいいのか分かんないぐらいネコが好きで、どうにかネコの気持ちを自分だけのものにしたくて今日まで頑張ってきた。
付き合っていながらも健太に抱かれたネコを責めるつもりは無い。
繋ぎ止めておけなかった俺の努力が足りねぇって。
俺が健太みたいに魅力的な奴だったら、他の男に目移りなんてしないはずだって。
なら、ネコが戻ってこれる居場所を作っておこうって。
いつでも泣ける場所、愚痴れる場所、眠れる場所、そして、心が休まる場所を俺はネコに与え続けたいって。
挫けるでも諦めるでもなく、ただネコの傍に居たいんだ。
「好きだ、ネコ。本気でネコだけを愛してる。変わらないこの気持ちだけは。誰にも負けねぇから、それだけはこの先もずっと覚えておいてほしい…。」
真面目な俺の顔を見てネコがふわりと腕を伸ばした。
トロンとした目で俺を見つめるネコが、ほんのり安心したように笑うと小さく言った。
「うん。覚えとく。でもごめん、あたし眠い…」
「えっ!?ちょっ、待った待った、おいっ、ネコッ!」
スッと目を閉じるネコは、あんなに泣いていたくせにちょっと微笑んでいて。
健太の存在がネコの中で完璧に消えるのはまだまだ先かもしれねぇ。
けど、俺って存在を今、初めて受け入れてくれたように思えた。
「マジで生殺し。どーしてくれんだ、コイツ。」
熱を帯びて硬くなっているそれに目を落として俺は苦笑い。
それでも、ネコが自分の腕の中で安心して眠れるのなら、それ以上のものはないとさえ思えた。
どんだけ惚れてんだ、マジで俺は。
サラりとネコの髪を指ですくって撫でる。
「んう、れいや、」
小さく呟くネコに、うわ言で自分の名前を呼ばれて死ぬほど嬉しいだなんて。
「安心して、眠れ。」
おでこにちゅっと、小さなキスを落として俺は悶々としながらも、ずーっとネコの寝顔を眺めていた。
心底幸せな時間だと思った。
.