【side ゆき乃】
「泣くの我慢してたんでしょ、ゆき乃先輩。」
「だってそれじゃ樹に示しがつかないから。」
ネコがよしよしって頭を撫でてくれる。
強がって我慢してたけど、全然ダメダメで。
毎夜、なっちゃんを想って一人で眠る夜は長くて辛かった。
どんなに逢いに行こうかと思ってはみたけれど、その度に樹の辛そうな顔が浮かんでは留まってきた。
「私ね、まだなっちゃんにちゃんと言えてないの、自分の気持ち。なっちゃんはずっとね、好きって言ってくれて、それにずっと応えたくて。でも樹と別れてもいないのに言っちゃダメって自分で思ってて、だから言わなきゃ。ネコ、黎弥ごめん、私なっちゃんのとこにイッ、」
一歩踏み出そうとした瞬間、目の前に逢いたくて逢いたくて堪らなかったなっちゃんの姿が見えた。
「うそ、」
「ゆき乃ッ、」
私の腕を掴んでふわりと抱きしめられる。
変わらないなっちゃんの温もりとなっちゃんの匂いにまた喉の奥から涙が溢れてくる。
「死ぬほど逢いたかった…」
「うん、うん、私も。」
なっちゃんは、横にいた樹を見て一度そっと私を離す。
「樹ごめん、もう限界。ゆき乃と居させて、この先も。本当に悪かったと思ってる。けど後悔はしてない。ゆき乃無しの人生は俺には考えられない。」
ちょっと痩せたんだろうか。
なっちゃんのフェイスラインが小さく見える。
半年間、同じ気持ちでいてくれたんだろうなっちゃんに、嬉しさがこみ上げてくる。
「悪いな、夏喜!とっくに許してる、もう。半年間言わなかったのは単なる俺の意地だ。さっさと連れてけよ、ゆき乃のこと!」
「ありがとう!!!サンキュー!!フォーエバー!!」
テンションあがったなっちゃんが普段大きな声なんて出さないのにそう叫ぶと私の腕を掴んでこのドアを開けた。
「あ、やべ、大事な事忘れてた、黎弥くん!昇進おめでとう!!」
また叫ぶと閉めたドアの前、そこに背をつけてふわりと私の唇を塞いだ。
こんな公衆の面前でキスなんて絶対にしない人だって思ってたけど、なっちゃんの唇はなかなか離れなくて…
何度となくキスを繰り返すなっちゃんの愛の深さにただ私は幸せな気分だったんだ。
「…ゆき乃、」
「なっちゃん?」
「このままラブホ行くのと俺ん家まで我慢するの、どっちか選んで?」
いつかのように二択を並べられて考える。
ラブホだと朝バタバタするよね?てことは…
「なっちゃん家!」
「決まり。」
手を繋いで駅に向かう足取りは軽くて、グレーだった世界に色が入り込んだような感覚だったなんて。
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