―――出逢いは今から一ヶ月前のことだった。
夏休みに入って遅番のシフトを入れまくったあたしがフロアに出ていた時、黎弥のテーブルと隣のテーブルに誰も注文を取りたくないって言ってて。
まさかJSBの幹部達だなんて思いもしなかったあたしは、「じゃああたし行きます」そう言って注文を取りにいったんだった。
それが間違いだったのかもしれない。
「お待たせ致しました、ご注文どうぞ」
そう言って視線を向けると、何ともカラフルな頭がいっぱいあって、思わず後退りしそうになったのを今でも覚えている。
みんなボソボソ喋るからうまく聞き取れなくて…
思いっきり顔を近寄せてやったんだ。
「もう一度いいですか!?」
どでかい声で。
そんなあたしをその時初めてちゃんと見たのが黎弥で。
「へぇ、可愛いじゃん」
それが黎弥の最初の言葉だった。
緩く口端をあけてあたしを下からジッと見つめ上げる余裕な黎弥をジロっと睨みつけてやった。
「笑えよ、その方が可愛いから」
不意打ちで言われて、カアアって全身赤くなったのも忘れられない。
素直に笑ってやったんだ。
「ありがとうございます」って。
次の日からだった、毎日のように黎弥達がこのファミレスに顔を出すようになったのは。
あたしがフロアを通る度に声をかけられて、帰りも待ち伏せされて家まで送るってコース。
勿論最初は嫌々だったけど、断ったら周りにめっちゃ睨まれて。
翔太って二番目に偉いんだろう人はいつも黎弥の面倒見てるのか?あたしまでなんだか監視されてるみたいで…
でもあたしが嫌がることや困ることは一つもされなくて。
だから自然と話すこともできて。
気づいたら黎弥と話すことがあたしの日課になっていて、楽しかったんだ。
―――でも、好きだって認めるのは苦しくて。
黎弥がJSBの七代目張ってなかったらよかったのにって。
至って真面目に生きてきたあたしに、今さら族の世界の恋人ができるなんて想像すらできなかった。
「あーついちゃった。手ぐらい繋げばよかったー」
家の前で止まってそう言う黎弥。
白いTシャツから伸びた筋肉質な腕はクラスの男子とはかけ離れているぐらいに逞しい。
長身で分厚いその胸板は、黎弥の強さを象徴しているようにも思えた。
「いつもありがとう」
「うん。無事でよかった」
…次はいつ?
いつも別れ際そう聞く黎弥だけど、もう聞いてくれそうもない。
俯くあたしをポンってして、顔を上げるとニッコリえくぼを見せて笑っている。
「次はいつ?明日?」
聞いてくれた。
「明後日…23時まで」
「了解」
「来てくれるの?」
「当たり前!言ったろ?俺が勝手に好きなんだって」
泣きそうになった。
嬉しくて泣きそうで、でもそれを黎弥にバレたくなくて「おやすみなさい」そう言うと、逃げるように家に入った。
ダッシュで部屋に戻って電気をつけると、しばらくして遠くでバイク音が聞こえる。
それが公園に置いたバイクに乗って黎弥が帰って行く音だった。