八つ当たりと勝手な私


「ストップ!それはこっち。左にハンドル切るの遅い。」
「…すみません。」
「もう一回やり直し。」
「あ、はい。」


ちょっとだけ困った顔の壱馬くん。仮免の一歩手前で教習所のコースをひたすら走っている。今朝直人に未来の話をされて、自分のしたことに無性に腹が立って、同時にその原因である壱馬くんに八つ当たり。最低私。それなのに嫌な顔もしないで私の八つ当たりに付き合ってくれる壱馬くん。


「ごめん。」


ハンドルを握る彼の手を小さく握るといつもの笑顔で優しく微笑まれた。


「大丈夫、全然怖くないから。モヤモヤしてるなら僕に吐き出してください。ね?」


その顔を見てると負けそうになる。でもダメだ、やっぱり私は逸れた道をいけない。モヤモヤを解消する方法は一つしかない。


「プロポーズされた、彼に。だからもう、…ごめんね。」


黙り込んでしまった壱馬くんはそっと私から視線を逸らした。馬鹿な私の軽率な行動が壱馬くんを傷つけてしまった、確実に。


「教官、他の人に変わって貰ってもいいから。」


無言のままコースを走り終えた壱馬くんに、助手席を降りる前にそう言った。本当は一度決めたら変えられないんだけど、この際仕方ない。汐莉か香澄なら変わってくれるはず。


「…勝手、ですね。」
「…え?」


壱馬くんを見ると当たり前に目が合って。その瞳は微かに揺れている。こんなに切ない壱馬くんの表情は初めてで。こんな顔をさせてしまったことを悔やんでも悔やみきれない気がした。でもどーしようもない。やっぱり私にはな、お……―――え?


「莉子、キスするから目閉じて。」


低い声に途端に胸がドキドキ高鳴る。だって私今キスしてる。拒否りもせず、壱馬くんのキスを受け入れてる。壱馬くんの声と視線と言葉に、私の五感全てが反応して身体がカァーっと熱くなるのを感じた。