事務所に戻ると神谷教官と香澄のツーショットが目に入る。なんだかんだいってもこのペアがしっくりくる。2人の横を通り過ぎて自分のデスクにつくと大きく息を吐き出した。
「どうしたの?」
「え、なにが?」
「溜息。なんかあった?」
神谷教官はもう既にいなくて、香澄が私の隣に座った。珈琲を一口飲んで私の言葉を待っている。
「ないよ、何も。香澄は、神谷教官と順調?」
「んー。あ、壱馬とどうだったの?」
「…ここじゃちょっと。」
「あ、そっか。じゃあ今日汐莉も誘って飲み行く?」
…ちゃんと話せるかな。こんな私、受け入れてる貰えるだろうか?苦笑いする私にポンポンって香澄が背中を優しく叩いた。別に言葉なんてないけどその温もりが「大丈夫。」そう言ってくれているように思えて泣きそうになった。
そうして定時を迎えた私達はいつもの居酒屋でいつもの席でガールズトークを開催した。
「えっと何から話せばいいのか…。」
なんか言葉が出てこなくて。いつだって思い浮かべるのは悲しそうな顔をした壱馬くん。どうしようもなく胸にこびり付いて離れない。
「莉子、どうした?話しづらい?…好きになっちゃった?」
見ると泣きそうな顔の汐莉。潤んだ瞳で私を見ていて。
「え、汐莉どうしたの?泣いてる?」
「ばっか莉子が泣きそうな顔してんだよ。もうどーしたの?」
「ちょっと2人とも泣かないでよ、つられる!」
「やだ香澄まで!泣かないでよー」
いつもは楽しいはずのガールズトーク、今夜はのっけから涙無しでは飲めなさそうで。涙と共に溢れ出す言葉は、壱馬くんへの想いと、直人への謝罪だった。
「違う!悪いのオミだよ!オミが莉子に招待状なんてよこすから崩れたんだ!オミが悪い!莉子悪くない!直人も壱馬も!」
「そうだ、そうだ、全部オミのせいだ!土下座しろー!」
完全に酔っ払い。全てをオミちゃんのせいにして、私は心のモヤモヤを2人に全部全部吐き出した。聞くと、汐莉は汐莉で、北人くんの暴走で浮気が俊ちゃんにバレて今とんでもなく気まずい状態らしい。北人くんが汐莉を絶対誰にも渡さない作戦に出たとかで。九州男児はやること豪快だなぁなんて。
「北ちゃん大好きだけど、未来は見えない。」
そう言ってコテっと眠りについた汐莉をこの日迎えに来たのは俊ちゃんだった。バイクじゃなくて車を出した俊ちゃんは、しっかりと汐莉を抱きかかえて運んだ。
「莉子ちゃん、香澄ちゃん、いつも迷惑かけてごめんね?こんな奴だけど見捨てないでやって!」
そう言って私達に頭を下げる俊ちゃんはかっこいい。ザ、大人の男!って感じで。浮気をした汐莉をちゃんと迎えに来てくれる優しい人。
「あの!汐莉のこと、その…。」
許してるの?とは言えないから口篭る。
「俺にはこいつしかいないから。めちゃくちゃやってる俺をいつも待っててくれるのこいつだけだから、ある程度は大目に見なきゃって。実際300日ぐらいほったらかしにしてんの俺だし!ま、言うてもこいつに惚れてんの俺だから。」
優しく汐莉の頬を撫でる俊ちゃんに、直人の姿が重なって見えた。