数秒遅かったら流されていたかもしれないなんて、笑えない。
「はぁー最悪。」
デスクに戻ってグダァーっと身体を投げ出した。右隣で同期の香澄が予約の電話を受けていた。イヤホンつけながら器用にパソコンを叩いて予定を埋めていく。でも香澄の眉間にはシワが寄っていて、ちょっと覗くとそこには神谷教官って文字。なるほど、イライラの原因はこれか。神谷教官はちょっとチャラいせいか女子に人気があって予約がたえない。だけど実際は香澄の彼氏で二人はラブラブだ。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいに。そのチャラさが毎度香澄をイラつかせているようだけど。
「お疲れ、莉子!聞いてよ!」
ポスっと肩を叩かれて反対側に同期の汐莉が座った。
「また俊ちゃんにドタキャンされた。ありえない。」
「あらら。仕事?」
「うーん、仕事なのかなんなのか分かんないけど、また大好きな篤志くんと。何回負けてんだろわたし、篤志くんに。ちきしょーこうなったら若い子と飲みに行ってやるんだから!ふんっ!」
「たはは。」
汐莉は年上の彼氏がいるんだけど、どうもほおっておかれることが多いみたいで、その度にいつもこうやって悲しい思いをしていた。まぁそーいう人を選んだのは汐莉なんだろうけど、こうもしょっちゅうあるとさすがに私も気の毒に思えた。
「莉子は直人さんと順調?」
「んーまぁ。でもオミちゃんのことがあって今日はちょっとボーっとしちゃってて、川村くんに心配かけちゃった。」
思い浮かべる壱馬くんに何となく汐莉から目を逸らした。心の中では壱馬くん呼びしていることも誰にも秘密。
「へぇ気が利くね、川村。どんな子だっけ?」
まるで興味のなさそうな汐莉に苦笑いしつつ壱馬くんを脳内に思い描く。
「んー。可愛い。見かけによらず礼儀正しくて、声が低い。ふふ、いい声してんだよねぇかず…。」
やば。かずまって言いそうになって慌てて口を閉ざす。チラリと汐莉を見るとキョトンとしていて、でもそのすぐあとニヤリと笑う。うそ気づかれた!?どーしよ。