「人と比べない。ゆき乃だって俺から見たら充分可愛いんだから、そんな風に言うなよな!」
…北人の優しい所はこーいうところなんだって思う。いつからだろうか、気づくと自分に自信のないわたしをこうしてよく励ましてくれる唯一の存在だった。
頬っぺたから手を離すとポスッと肩に手を乗っける。傘の柄を反対側の手で持ってわたしの肩を抱く北人に、距離が近ずいたことにちょっとドキドキする。
「北ちゃんあんな汗かいたのに、なんかいい匂いする。」
「話逸らしやがった。」
「男子って基本臭いじゃん!なんだろう、特有の汗臭さというか。なんで北ちゃんは臭わないんだろうね?」
「王子様だから?」
「自分で言っちゃったね。」
「俺達も寄り道してく?」
「え?」
「ラーメン食ってこうよ。」
そういや北人って、無類のラーメン好きだった。毎日帰り際にラーメン食べてから帰るって噂は本当だったのね。
「うん、食べる!ラーメン屋なんて女一人じゃ入れないもん!美味しいとこあるんだよね?」
横を向くと当たり前に目が合って、わたしにニッコリ微笑むと「もちろんあるよ!」って、誘導されて、駅に向かう道からほんの少し逸れた路地裏にわたしは連れていかれたんだ。
「こんばんはー!」
「おー北人、いらっしゃい!ってお前女連れかよ!」
「はは、バスケ部のマネージャーですよ。ゆき乃、この人若旦那の健太さん。っても俺らと歳ほとんど変んないけど。」
頭にタオルを巻いてグレーのTシャツをインしている健太さんは、濃いめの顔でわたしをマジマジと見つめた。
「初めまして。お世話になります。」
頭を下げると優しそうに微笑んでくれた。
「本命の彼女、こんな汚ねぇ店に連れてこねぇか!バレンタイン前だしちゃっかりしてると思ったら。」
「健太さん煩い。いつもの2つください。」
「へいよ。」
二人のやり取りに思わず笑う。
「北ちゃん常連なんだねぇ。」
「いやマジでここの豚骨めっちゃうまいから、吃驚するよ?」
「ふふ、楽しみ。」
「餃子も食うでしょ?」
「うん。」
「キス、できなくなっちゃうね?」
頬杖をついて水をゴクッと飲んだ北人にそう言われて「しないから、ばか!」って腕を叩いた。