「みんな浮き足立ってるね」

「ま、男だからしょうがないよね」

酒屋にて。私とイッカクは並んでお酒を飲んでいた。隣にはベポがいて、ハートの海賊団のみんなも揃っている。そして奥の中央に座っている我らがキャプテンの両脇には煌びやかで綺麗な女性。シャチやペンギン、他の船員たちのところにも女性が付きそれはそれは嬉しそうに鼻の下を伸ばしていた。こうして女性が付くような栄えた島に上陸できるのも運次第であり、決して多くもない。海賊の…いや、男にとっては貴重な時間だ。

「さて、そろそろ戻ろうか」

「ウニとクリオネ呼んであげなきゃね」

盛り上がっているみんなを横目に酒屋を出る。ここへ来る前にじゃんけんで負け、しょんぼりしながらみんなの姿を見送ったウニとクリオネを思い返してつい笑ってしまった。今日はみんな船には戻らないんだろうな、と歩きながら酒屋の方を振り返るとドアが開く。そこから出てきたのはキャプテンと、さきほど隣にいた女性の姿だった。
バチリ。キャプテンと目が合い、なんだか変な気持ちになる。そうか。キャプテンも今日は船には戻ってこないんだ。

「どうかした?」

「…ううん、何も!そういえば、みんなに内緒で買ったお酒があるんだけど一緒に飲まない?」

「#名前#…アンタ最高!」

ハイタッチをして船に戻ると、ウニとクリオネは嬉しそうに船を出て行った。星空の下でこっそりとお酒を開けてイッカクと乾杯をする。

「たまにはこういうのもいいね!#名前#と二人で飲むなんて普段できないし!」

「なかなかゆっくり話せないもんね」

すでにお酒が入っているため少しふわふわした意識の中ガラスを傾ける。イッカクはこの船に乗った時のこと、冒険した島、たくさんのことを話してくれた。

「私はこの船のみんなのこと、家族だと思ってるんだ」

そう言って微笑むイッカクは、一つ瞬きをして私を見る。その顔は悲しそうに歪んでいた。

「だから…必要以上に警戒しすぎるのかもしれないね」

「イッカク?」

「あの時のこと、本当に申し訳なかったと思ってる」

「ふふ、本当にもう気にしてないし…こうしてイッカクと仲良くなれたのが私は嬉しいよ」

ハートの海賊団は誰にも壊させない。もう誰一人失いたくないのだと言うイッカクの様子から、ここに来るまでに私の知らない仲間がこの船に乗っていたのだろうと思った。

「アンタの手配書…見覚えがあったんだ」

「え?」

「私が見た時はスペード海賊団の手配書の中にあった。でも考えてみたら、キャプテンがそれを知らないはずないし…余計な心配だったかもね!」

イッカクの言葉に、ハッとする。トイレに行くと立ち上がったイッカクを見送って、考えた。そうだ。もしかしてキャプテンが私のことを手配書で知っていたのは海賊狩りとしての私ではなくスペード海賊団としてなのではないか。スペード海賊団は数年前、兄であるエースが船長を務めていた海賊だ。今は白髭海賊団に入っているが、私はエースと共に海へ出てスペード海賊団を結成した。私に懸賞金が懸けられたのもその頃だ。今と同じフード付きのローブを着ていて手配書に載っていたのは知っていたが、派手な戦い方をするエースの影に隠れてあまり印象には残らないだろうとたかを括っていた。イッカクが知っているなら、他のみんなも知っているのだろうか。キャプテンは、何も聞かないのだろうか。

「……おい」

「え?あ、は!?キャプテン!?」

「うるせぇよ」

突然目の前に現れたのは、たった今頭の中に浮かべていたばかりのキャプテンだった。船には戻らないんじゃなかったのかと混乱していると、キャプテンの視線が私の手元に落ちる。グラスにはまだお酒が残っていて、私の手を掴んだキャプテンはそのままグラスの中のお酒を飲み干した。

「あー!!!」

「#名前#、何騒いで…って、キャプテン!?」

「お酒、最後だったのに!」

「フン、こそこそ飲むからだろ」

「船に戻ってくるなんて珍しい…どうしたんです?」

「……ただの気分だ」

空になったグラスをぷるぷる震わせる私を置いて、キャプテンはさっさと船内へ入ってしまう。閉まった扉に向かってキャプテンのバカ!と叫ぶと青いサークルに包まれてしまったので瞬時に謝罪することとなった。


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