いよいよ出航の日。買い出しは初日で済ませたはずなのだが買い忘れがあったらしく、手が離せないコックの代わりに私が街へ出ることになった。メモを見ながら買い物を済ませ、早歩きで船へと戻る。すると脇道から出てきた誰かとぶつかった。謝罪の意を示すために大きく頭を下げて再び歩き出すと、声をかけられる。
「お前……#名前#か?」
フードに注意しながら相手の顔を見れば、見知った顔が目に映った。エースといい、こうも懐かしい人に出会うなんてと嬉しくなる。
「ティーチ!」
エースと同じ白髭海賊団の一員であり、二番隊隊長であるエースと同じ隊に入っているティーチ。身体が大きくて見た目は怖いが、何かと気にかけてくれて面倒見のいい性格の持ち主である。
「あれ?エースが昨日この島出るって言ってたけど、まだいるの?」
「エース?エースと会ったのか?」
強張った顔でそう聞かれて頷く。ティーチがいるということはもしかしてエースと一緒に行動しているのかと思ったが違うようだ。
「……エースのやつ、何か言ってたか?」
「ううん、何も。ティーチは連れ戻しに来たの?」
「あ、ああ…そんなところだ」
「ティーチも大変だね…っと、そろそろ行かなきゃ」
またね!と手を振って別れ、走り出す。私にとっては久しぶりの家族に会ったというただそれだけの感覚だった。ティーチの様子もいつもと違うように感じたが、ハートの海賊団にいる私が首を突っ込むべきことではない。それにティーチが追いかけてきてくれているのだ。エースと合流すれば何も問題はないだろう。
「あ!おかえり、#名前#!」
「助かったよ、ありがとな!」
船に戻ると、ベポとコックが出迎えてくれる。頼まれたものを渡して中へ入ろうとするとキャプテンが出てきた。
「ただいま戻りました!」
ああ、と返事をしたキャプテンは私の頭に手を置いて甲板へ出て行く。するとその後ろからペンギンやシャチ、イッカクとみんながぞろぞろと出てきてぎょっとした。
「……みんな顔が気持ち悪、いやこわいよ」
「お前今気持ち悪いっつった!?」
ニヤニヤしているみんなから遠ざかろうと、キャプテンの背後へと逃げる。キャプテンはといえば呆れたようにため息を吐くだけで何も言わない。
「なんで逃げんだよー!」
「キャプテン助けて!!!」
ひしりとしがみついてキャプテンを見上げると、あろうことか目の前に差し出された。
「キャプテンの裏切り者!!!」
「聞こえねぇな」
目の前にはなぜかハートの海賊団全員が集合している。一体何を始めようというのか。それぞれ目を合わせて頷き、ベポが前に出る。じゃーん!と効果音付きで見せられたのは、
「ツナギ…?」
みんなが着ているのと同じ、白いツナギだった。もちろん胸元にはハートの海賊団の証であるジョリーマークがある。
「やっとお揃いだね!」
「さっそく着てみろよ!」
「丈が長かったら俺が調節してやるからな!」
まるで自分のことのように喜んでいるみんなに、私も思わず笑顔になる。本当の意味で仲間として認められたみたいで嬉しかった。すぐに部屋に戻って着替えてみると、サイズは少し大きいが直すほどでもない。
「これぞハートの海賊団って感じだな!」
「似合ってるよ、#名前#!」
「ありがとう…!」
するとシャチがやってきて、こそりと耳打ちをする。
「この島でツナギ作ってやれって、キャプテンが言ったんだぜ」
「え?」
「はやくツナギを着せたいってせがんでたのはベポだけどな!」
サプライズで渡そうと計画したのもベポらしい。だがそのせいでサイズが分からず、いざツナギを作ろうと店に入り困っていたところにキャプテンが現れてくれたおかげで無事作れたのだと。たしかにシャチたち基準のサイズでは間違いなく着れないだろう。
「キャプテン!」
緩みきった頬を隠さぬまま、キャプテンの目の前で両腕を広げて見せる。
「ありがとう!」
フッと笑ったキャプテンは私たちに背を向ける。その光景は私がキャプテンと出会いこの船に乗った時と同じものだった。
「出航だ」
「「「アイアイキャプテン!!!」」」
これからまた、ハートの海賊団としての冒険が始まる。