これは、とある船員の航海日誌である。

「航海日誌っつーか、お前の日記だろ」

「うるせー!細かいことはいいんだよ!」

「他のやつも好き勝手書いてるし、まるで交換日記だな」

「その言い方やめろ!野郎で交換日記って寂しすぎだろ!」

気を取り直して目の前のノートに向き合い、今日あったことを頭の中に浮かべる。書きながら思い出すのは、これまでに起きたさまざまな出来事だった。そしてここ最近であった大きな出来事といえば、新しい仲間が増えたことである。しかもイッカクに次ぐ女の子。喜ばないわけがない。肩に付くくらいの長さの柔らかい金色の髪と、茶色がかった瞳。小柄な体格で一見か弱そうに見えるがそんなことはなく、むしろ強くて敵には容赦がない。それでいて仲間に対しては人懐こい性格で、今や妹のような存在だ。そしてそれはキャプテンも同じなようで、何かと世話を焼いているのを見かける。といっても#名前#が転んだり梯子から落ちそうになったり、危なっかしい場面にキャプテンがよく出くわすからというのもあるかもしれない。だけど#名前#といる時のキャプテンは表情だとか雰囲気が柔らかい気がして、妹と重ねている部分があるのだろうかと思っていた。………思っていたのだが。

「キャプテンのあの反応はもしかするともしかするんじゃね?」

「#名前#は何とも思ってなさそうだったけどな」

妹だとか、家族愛とは違うものがキャプテンの中に芽生えたのではないかと俺は推測する。それもこの前上陸した島で武器を買いに行った時、#名前#の口から無意識に出たかっこいいという言葉に対するキャプテンの反応でそう思わざるを得なかった。

「あんなキャプテン、初めて見たよな」

「……もしこの会話がキャプテンに聞かれでもしたら、俺たち身体が繋がらないくらい刻まれるぞ」

「いいじゃんかよーペンギンも気になってるくせに!」

「気にならないわけじゃないが…まあ、二人が一緒にいる姿見るとなんだか微笑ましいよな」

「分かる分かる。いつも一緒にいるわけじゃないけど、安心するよな」

不思議なことに、とペンギンと二人で首を傾げる。しかし数秒後、あっと顔を見合わせた。

「「楽しそうだからか」」

キャプテンは表情が豊かな人ではない。笑う時は笑うが、無表情でいることがほとんどだ。そんなキャプテンが#名前#といる時、よく笑っているのだ。

「そういやこの間、キャプテン珍しく船に戻ってたな」

「おいペンギン、聞いてないぞその話」

航海日誌を書く手は止まるどころか、ついにペンを置いてペンギンに詰め寄る。この前上陸した島で酒を飲んだ日の夜、いつもキャプテン含め俺たちは見張り以外全員船には戻らない。なんでかって?それは俺たちが男だからだ。察してほしい。

「確かウニとクリオネが留守番してたよな?」

「#名前#とイッカクが途中で変わったらしい」

「なんつーか……」

キャプテンって分かりやすいな。
またもやペンギンと声が重なり、我らがキャプテンの顔を思い浮かべる。いつも冷静で、誰よりこの船と仲間のことを考えて行動するキャプテンは俺たちの道標であり生きる意味でもある。機嫌が悪いとバラされることも多々あるが、ベポには甘くなんだかんだ俺たちにも優しい。特に#名前#が来てからのキャプテンは以前より穏やかな気がする。

「けど、この前のキャプテンはえらく機嫌悪かったな」

「相手は一人だったし、喧嘩売られたわけでもなさそうだったが…とても話の内容を聞ける雰囲気じゃなかった」

そう、島でキャプテンとベポ含む四人で昼食をとっていた時のことだ。カウンターにいた一人の男性客にキャプテンが話しかけられて二人で話をしていたのだが、戻ってきたキャプテンの機嫌がそれはそれは悪かった。話をしたと言っても短い時間で、一体何を言われたのだろうと気にはなったがさすがのベポも何も聞かずにひたすら注文した肉を口に入れていた。その時食べたものの味なんて全く覚えていない。覚えているのはキャプテンが話していた男が白髭海賊団のーー

「なにしてるの?」

「ギャーーー!!!」

「って、ベポかよ!!!」

「なんかすいません…」

「キャ、キャプテンは?」

「キャプテン?さっきまで一緒にいたけど、#名前#と食堂に行ったよ?コーヒー飲みたいんだって!」

ホッと胸を撫で下ろして、微笑ましい二人の姿を想像する。キャプテンに用事?呼んでこようか?と部屋を出ようとするベポを全力で阻止したところで今日の航海日誌は終わろうと思う。


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