夢を見た。
山の中を駆けていた、懐かしいあの頃の記憶だ。四人で身体に傷がつこうが泥だらけになろうが構わず木に登っては遠く広い海を眺めていた。動物を追いかけ、逃げ、戦って暮らしていた。私とエース、ルフィと、そしてーー
「ん…?」
目を開けると真っ暗だった。うっすらと明るい光が隙間から漏れて、何かが被さっているのだと分かる。そっと手に取ってみれば一気に差し込んだ光に顔を顰めた。
「……キャプテン」
私の頭に被さっていたのはキャプテンの帽子で、隣にはキャプテンが本を顔に乗せて寝ていた。背中にいるベポも気持ち良さそうに寝ていて起きる気配はない。ふあ、とひとつ欠伸をしてもう一度寝ることにした。
「なんでだよ!」
「わ、びっくりした…キャプテン起きちゃうよ」
「あ、危ねぇ…つい突っ込んじまった」
「どうしたの、シャチ」
帽子をベポのお腹に置いて起き上がる。せっかくお昼寝してたのに。もう一度寝ようとしていたのに。
「お、お前さ…」
「うん?」
「あー…なんだ、ほら…あの…」
「……シャチ、大丈夫?」
頭、と付け加えると平常だっての!と元気な返事が返ってくる割にはシャチの様子がおかしい。何か言いたいことがあるのだろうということは分かるが、さすがに内容までは察することができなかった。
「残念なものを見るような目すんじゃ……あ、」
ついにはシャチの顔がサッと青くなり、本当に何か変な物でも食べたんじゃないかと心配になる。しかしシャチの視線が私より後ろに向いているのに気づき、振り返った。
「おはようございます、キャプテン」
「さっきからうるせぇ…」
「す、すみませんでした!!!」
「ちょっとシャチ…って、逃げ足早い!」
追いかけようとお尻を浮かせたところで、強い力に引っ張られてストンと再び座り込む。乱暴に帽子を被せられ、再びベポの身体に埋もれる形になった。
「ほっとけ」
「でも、ほんとにシャチが何か病気になってたら…」
「お前が言ってんのは頭の、か?」
「頭の、です!何か食べたせいで脳が麻痺したとか」
「……俺のは冗談だが、そこまで言われちゃアイツに同情するな」
「私は至って真剣に言ってるんです!」
「それ以上は言ってやるな」
決してシャチを馬鹿にしているわけではない。決して。
「いいから寝ろ」
それ、キャプテンがただ寝たいだけですよね。
つい口に出そうになった言葉を飲み込んで頷くと、ボフリとキャプテンがベポの身体に沈む。この帽子といい、モフモフしたものが好きなのだろう。
「帽子、被らなくていいんですか?」
「……暑いからいい」
たしかに今日は雲があるとはいえ太陽が出ていてポカポカ陽気だ。とはいえ日差しを遮るものがあった方がいいんじゃ、とキャプテンを見るがもう目が閉じている。
「…ベポ、暑くないのかな」
「ベポにやるなら返せ」
「起きてたんですね…私が言うのも変ですけどあげませんよ、この帽子好きなので」
「……そうか」
そのまま短い会話がポンポンと続く。お昼寝の邪魔になるんじゃないかと思ったが、思いの外キャプテンの声色ははっきりしていた。心地よい時間が流れて、次第に瞼が重くなっていく。
「キャプテン…」
「なんだ」
「私ね、私…キャプテンに話したいことが…いっぱい、あるんです…」
半分夢の中へと旅立ちながら何とか口を動かす。
そしてついに意識を手放す瞬間、キャプテンが何か言った気がした。
*
「#名前#、いつまで寝るつもりだ?」
「ぐっすりだよなー。まあ敵襲もないし、キャプテンも寝かせとけって言ってたからいいんじゃね?」
遠くで声が聞こえる。目を開けると、シャチとペンギンの姿が目に入った。するとパサリと何かが落ちて、視線を落とすと毛布
「お、起きた」
「ずいぶんと長い昼寝だったなあ」
「よく寝た…毛布ありがとう」
「毛布持ってきたの俺たちじゃねーけど」
「#名前#が自分で持ってきたんじゃないのか?」
エース、と最後に