「キャプテン!!!」

わっと集まってきたハートの海賊団の船員たちは、昨日見た時と同じく全員同じつなぎを着ている。隣にいる私に気づき、シロクマが声を上げた。

「キャプテン!その子は?」

シロクマが喋った!?
びっくりして思わず一歩後ずさると、シロクマは心の声を呼んだかのようにすんません…と落ち込んだように項垂れる。打たれ弱っ!!!と船長以外のみんなが突っ込むところを見ても、やはり賑やかな海賊だと思った。

「コイツを船に乗せる。出航だ」

「「「アイアイキャプテン!!!」」」

は!?と突っ込みそうになるのを堪えてトラファルガー・ローと向き直る。いくらなんでも強引すぎやしないだろうか。拒否権は?私の意見は?

「何か言いたそうだな」

生憎、何の文句も言わずにすんなり受け入れている船員たちとは違って私には言いたいことがいくつかある。むしろない方がおかしい。私はこの船に乗る承諾をしていないし、乗る予定の船だって交渉して前金まで渡しているのだ。そもそも前提として、初対面の海賊の船に乗るつもりもない。
黙ったままフード越しに視線を送っていると、不服そうな態度に気づいたらしい。

「嫌なら逃げてみろ」

それはそれは自信たっぷりに私を見下ろした。
できないと分かっていながら、ほんのわずかな希望に縋りたくて頭の中で逃走経路を浮かべてみる。彼さえいなければここから逃げる事は可能だろうに、先ほどの能力を見せられてしまえばやはりほぼ不可能だった。
仕方がない。左手に銃を持ち迷わず三発引き金を引く。一瞬でも隙が生まれれば。少しでも時間が稼げれば。そして撃ったのと同時に走り出した瞬間だった。

「っ!?」

相手に当たるはずだった銃弾は届くことなく逆に私の方へ戻ってくる。そしてそのまま三発とも私の足元に撃ち込まれるというありえない光景に呆然とした。こうなったらやけだ。刀に手をかけると、ざあっと吹いた強い風がローブをパタパタと揺らす。彼は帽子のツバを少しだけ上げて言った。

「俺は海賊だ。欲しいものは力尽くで奪う」

そう言い切る様は素直にかっこいいと思った。
これをカリスマ性というのか。その辺の海賊が言おうものなら安く下品な言葉にしか聞こえないそれになぜか心を動かされて、この人ならという気にさせる。

「………」

「覚悟は決まったらしいな」

刀から手を離すと、彼は満足そうに笑った。

「お前のその格好を見れば問題なさそうだが、一応言っておく」

「………?」

「うちは女を特別扱いしねぇからな」

そう言い放ち、出航の準備をしろと周りに指示を出した彼は背を向けて去っていく。バタン、とドアが閉まったところで。

「「「お、女ァァァァ!!!?」」」

絶叫が響き渡ったのだった。


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