私はあれから食堂へと連れられ、今現在とても困惑していた。いくつもの視線が向けられて思わず縮こまりフードを握りしめる。次々と自己紹介をされたが正直全く覚えきれていない。分かるのはシロクマのベポと帽子に名前が書いてあるペンギン、そして目の前にいるキャスケット帽がトレードマークのシャチくらいだ。海賊に負わされた怪我は軽かったようで、ところどころに包帯や絆創膏が見えるものの元気に私の肩をバンバン叩く。
「酒屋でも思ったけど、お前強いな!まさか女だったなんてびっくりしたぜ」
「アイアイ!手配書見ても分かんないよ」
「けどまあ、うちの船長に目付けられたのが運の尽きってやつだな」
彼らが手に持っている手配書には今の私の姿がそのまま映っている。顔も隠れているし名前も空白だ。
「一千万かー」
「俺なんて五百ベリーだよ」
「お前は…なあ?」
ズーン、と落ち込むベポの背中を思わず撫でていると入り口のドアが開く。
「……揃いも揃って何やってんだ、お前ら」
「キャプテン!今自己紹介してたんですよ」
船長であるトラファルガー・ローは私の前まで歩み寄り、近くの椅子にどかりと腰を下ろす。
「そういやお前……名は?」
そうだった!とでも言うように全員が勢いよく私の方を向く。あとその暑苦しい格好もどうにかしろと頭を指さされ、意を決してフードを取った。
「#名前#です!」
頭を下げ、上げると同時にフードを被る。しかしフードは呆気なく外された。負けじとフードを被り直すが、がしりと頭を掴まれる。
「言ったはずだ…女だからって特別扱いはしねぇ。お前を狙うやつもここにはいない」
女だからと舐められ戦闘にもなれば執拗に狙われた。襲われそうになったこともあった。それが嫌で姿を隠し性別を判別させないようにしていたことはトラファルガー・ローから見ても明らかだったらしい。それだけが理由ではないのだが、確かに船の中で姿を隠す必要はない。
「でも長いことこの格好だったから慣れないというか、」
「なら慣れろ」
問答無用とばかりにピシャリと言われて大人しくフードから手を離す。そこで初めて、目が合った。
「よ、よろしくお願いします…えっと、キャプテン」
返事の代わりに短く笑ったキャプテンは、そのまま食堂を出て行く。今日は宴だ!と嬉しそうに騒ぐ船員たちに、思わず笑ってしまった。
そして夜になると、甲板に料理とお酒が並べられる。私の隣にはこの船で唯一の女性であるイッカクがいた。さっぱりとした性格で話しやすく、頭にバンダナを巻いているのが印象的だ。しかし警戒されているのか、会話をしていても少しだけ距離を感じる。今日初めて会った得体の知れない、しかも手配書に載っているような輩に対して最初から心を開く方がおかしな話だ。
「#名前#ー!飲んでるか!?」
……そう、おかしな話なのだ。
「今日はお前の歓迎会なんだから飲めよ!」
「あ、ありがとう…」
今日から仲間なんだからな!と笑うシャチには警戒心のかけらもない。他のみんなも何かと声をかけては騒ぎ、お酒を飲んでいる。戸惑いながらも懐かしい光景に思わず笑みが溢れた。
「お前ら飲んでばっかねぇで食えよ!」
「お!じゃあ今から大食い対決するか!」
話の流れがめちゃくちゃなのは酔っている証拠なのだろう。俺がいく!と候補者も出たところで賭けが始まる。ベポに賭ける者が多い中で、突然頭に手が乗った。
「俺はコイツに賭ける」
「マジすかキャプテン!」
「負けても文句言わないでくださいよ!」
「……私の拒否権は?」
さっさと行け、と勝手なキャプテンは私を送り出す。隣にいるペンギンの、キャプテンずるいですよという言葉に当の本人はニヤリと笑っていた。
「容赦しないぞ、#名前#!」
「辞退するなら今のうちだぜ」
「辞退したら私の身が危ない気がするの」
スタートの合図で謎の大食い対決が始まる。とりあえず食べることに集中しようと料理に手を伸ばした。
「も、もう無理…」
「お前の胃袋どうなってんの…?」
「おいしかったらいくらでも食べれる」
「そういや酒屋で見た時めっちゃ食ってたの今思い出した…」
「キャプテン、それ知ってて#名前#に賭けたのか…」
だからペンギンはずるいと言ったのか。満足そうにお酒を飲むキャプテンに目を移しながらお肉を食べる。
「ジュエリー・ボニーかよ」
「確かにいっぱい食べてたなあ」
「しかも勝負済みかよ!!!」
結局キャプテンの一人勝ちで終わった今回の勝負。私はおいしい料理をたくさん食べることができたし、つまるところ船員たちが損したばかりの歓迎会となった。