ハートの海賊団の一員になってまだ日は浅いものの、自分でも驚くほどこの船に馴染めたと思う。それはみんなの人柄あってのことで、強引に連れてこられたからといって嫌な思いをすることもなくむしろ楽しい日々だとここに来てからのことを振り返った。悩みがないというわけではないが、と上で見張りをしているイッカクを見る。視線が交わることはなく、そっと視線を下に落とした。

「今日は天気がいいねえ」

「そうだねえ」

ゴロン、と甲板に寝転がり目を瞑る。隣にはベポがいて何とも平和な一日だ。このままお昼寝でもしようかと肩の力を抜いた時、ベポが言った。

「ねえ#名前#、この船に来てどう?楽しい?」

「突然どうしたの、ベポ」

顔を横に向けると、不安そうな顔をしたベポと目が合う。私が普段楽しくないように見えるのだろうか。あのねあのね、と必死に何かを伝えようとするベポの話を聞こうと身体を起こした。

「キャプテンに無理矢理連れてこられて、本当は嫌なんじゃないかなって…俺は#名前#がいてくれて楽しいけど、#名前#がそうじゃなかったから俺悲しいよ…」

「それは………シャチが言ってたの?」

ギクリ、と効果音が聞こえてきそうな足取りで私たちの後ろを通り過ぎようとしたシャチ。ニコリと笑って銃を構えると慌てて言い訳をし出した。

「待て待て!俺はただベポの相談に乗っただけなんだって!」

「ベポの不安を煽ったわけじゃなくて?」

「俺の話を聞いてくれ!!!」

聞けば、ありがたいことにベポは私がこの船に来たことをとても喜んでくれているらしい。しかしキャプテンに無理矢理連れてこられたのだから船をおりようとするんじゃないかという考えが頭に過り、シャチに相談をした。するとシャチはありえるかもなと頷き、#名前#が本当はどう思ってるのかも分かんねぇし、という答えが返ってきたことでベポは不安になったのだという。

「……やっぱり煽ってるよね?」

「ちが、いや結局違わねぇかもだけど!俺は思ってること言っただけだからな!」

「ベポはなんでペンギンに相談してくれなかったのか…その一言に尽きるよ…」

「ほんとお前、俺の扱い雑な!!!」

でも心開いてくれてるってことか!?うれしいな畜生!なんて叫ぶシャチはさておき、ベポと向き直る。確かに有無を言わさずこの船に連れてこられてそのまま出航し今に至るわけだが、おりようと考えたことはない。それに無理矢理と言われればそうなのかもしれないけれど、最終的にこの船に乗るという選択をしたのはキャプテンに惹かれたあの日の私自身だ。

「ほんとに?#名前#はこの船が好き?」

「まだ少ししか乗ってない私が口にしていいのかは分からないけど、この船はいい船だと思うし好きだよ」

「よかった!俺もこの船が大好きだから、#名前#にも好きになって欲しかったんだ!それと、キャプテンのことも!」

「キャプテン?」

「キャプテンはああ見えてすごく仲間思いで優しいんだよ!だからキャプテンのこと、勘違いしないで欲しいんだ」

何かとキャプテンの名前を呼ぶみんなの姿を見れば、どれだけキャプテンのことを好きかがよく分かる。私を船に乗せた時だってそうだ。誰一人文句も言わずに受け入れたのは何よりキャプテンが信頼されている証拠。

「#名前#は強いから、キャプテンはどうしても仲間にしたかったんだよ!」

「まあそれにキャプテンの気まぐれも重なったんだろ」

「酒屋で#名前#を見た時点で、面白い戦い方をするやつだってずっと見てたからな」

「あれ、ペンギンいつのまに?」

会話に加わったペンギンに驚きつつ、酒屋でずっと見られていたなんてと銃に触れる。

「確かに、銃と刀で戦うやつなんて初めて見たな」

「両利きなのか?」

「左手は銃を打てるってだけで、右利きだよ」

戦いにおける男女の圧倒的な力の差というのは容易に埋められるものではない。それは身体の構造上どうしようもないもので、いくら身体を鍛えたって男の力に敵いはしないのだということを身をもって知った。その時に思いついた武器が銃だったのだ。刀では男女で攻撃力に差ができるが、銃となれば話は別だ。刀の攻撃力を銃で補ってしまえば、相手が男だろうが充分戦えた。

「打って切るって、頭がこんがらがりそうだな」

「練習すれば考えなくてもできるようになるよ」

ハードな練習が必要だろうけど、と昔のことを思い出す。しかしぶるりと身体が震えてすぐにやめた。

「……ん?」

ふと、風が強くなった気がして立ち上がる。そう感じたのは三人共同じだったようで、なんだなんだと辺りを見渡した。静かな海に晴れ渡る空。特に変わった様子はない。みんなで首を傾げていると上から声が降りてきた。

「嵐が来るよ!!!」

イッカクの声が響き渡り、船内に緊迫した空気が流れる。とりあえず中へ入ろうと歩き出した時、明るかった空が一気に真っ暗になった。同時に滝のような激しい雨が打ちつけ、視界を阻む。先に船内へと入ったシャチたちに続こうとしたところでイッカクの様子が気になり顔を上げた。

「イッカク!」

「あ、おい!#名前#…って、やべぇ!」

「ドアがもげちゃうよ!」

「くそ、船長呼んでこい!」

手すりに捕まったまま動かずにいるイッカクの姿を見て走り出す。この雨と風で目を開けることすら困難な状況の中で、身体を持っていかれないようにするのがいっぱいいっぱいだった。それでもなんとかイッカクの元へたどり着き、手を伸ばした時ーー

「っ、イッカク!」

ぶわりと風に流されてよろけたイッカクが、船の外へと投げ出されそうになる。思わず手を伸ばして力いっぱい引っ張ると、身体が浮く感覚がした。

「うわ、わああっ!」

「#名前#!!!」

こちらに手を伸ばすイッカクが、一瞬で見えなくなった。


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