「……どこだろう、ここ」

目を覚ますと、ザザーンと静かな波の音と鳥の鳴き声が聞こえた。周りにはこれといって何もなく、ただ砂浜が広がっているだけ。嵐に巻き込まれて飛ばされたというのに無傷でいるだけでもありがたい…と思わなければいけないのだろうが、そうもいかない。船からどの方角へ飛ばされたのかも、距離も、何も分からないのだ。それに何の手がかりもないのにこの広い海のいくつもある島の中から私を見つけることなんて、ほぼ不可能に思えた。もし船の近くにある島がこの島だけならすぐに助けは来るかもしれないが…そうじゃないなら早々に諦めるべきだろう。私にそれほど価値があるとは思えなーー

「……だめだ、とにかく情報を集めないと」

ネガティブな思考を停止させて立ち上がる。久しぶりにフードを深く被って歩き出した。
生い茂る草木をかき分けて前へ進むと、開けた場所へ辿り着く。ポツンと廃れた建物が目に入りそのまま近づいてみた。明らかに長年放置された様子のその建物は天井が崩れ落ちて壁しかない。中もガランとしていて、落ち葉や木の枝が散らばっていた。

「………?」

ふわっと被っていたフードが浮いて、違和感を覚える。下から風が吹いた気がしてトントンと床を強く蹴ってみるとやけに響く感じがした。どうやら地下室があるようだ。無事入り口を見つけ出して中へ入ってみると、壁にはこの島の地図と思われるものが張り出されていた。

「……お宝の予感?」

その中に描かれたバツ印に、わくわくする気持ちを抑えることができずにんまりと笑う。

一方その頃、ポーラータング号ではーー

「風向きと潮の流れからして、おおよその場所は絞り込めたんですが…」

広げた地図を囲むハートの海賊団の姿があった。ペンギンが印をつけた場所は二つ。海に沈んでいない限り、このどちらかに#名前#は流れ着いていると予測できた。一つはポツンと佇む、よくある小さな島。そしてもう一つ、とペンギンが指す場所に目をやったところでキャプテンであるローの眉がピクリと動く。

「正直、この小さい島の方に流れ着いてくれてることを祈りたいですけどね…どちらから行きますか」

「決まってんだろ」

次いで発せられたローからの指示に、船員たちは大きく頷いた。みんながそれぞれ持ち場につく中で、イッカクは一人うつむいて固く拳を握っている。それを見たローはイッカクの前まで歩み寄った。

「今お前にできるのは…この船を進めることだけだ」

いくら考えたって、悔いたって状況は何一つ変わりはしないのだと現実を突きつける。イッカクは唇を噛み締めながら返事をし、操舵室を出ていった。あの場に居合わせたベポ、シャチ、ペンギンの三人も初めは泣いて騒いでいたが今はそれぞれやるべきことをやっている。まだ仲間に引き入れて一月しか経っていないというのに、誰もが迷わず#名前#を助けに行くという選択肢を選び、誰もが#名前#が生きていることを信じて疑わない船員たちをローは改めて誇りに思った。#名前#の性格がそうさせているのもあるが、と普段の#名前#の様子を頭に浮かべてみる。船員たちともすぐに打ち解け、ローにも物怖じせず話しかけてくる#名前#は基本的にしっかりものだ。宴が終われば甲板で寝ている船員たちに毛布をかけて歩いたり、片付けを手伝っていたり。しかし堅物というわけでもなく、暇つぶしにやっている賭け事のゲームにも喜んで参加するしたまにベポと甲板で昼寝もしている。先日はシャチとくだらない言い合いもしていた。初めこそ警戒心を見せていた#名前#はこちら側に引き入れてしまえばとても人懐こい人物だったのだ。名前#を仲間に引き入れたのはローの気まぐれでもあるが、一番の理由はこの船の戦力になると思ったからであり実際#名前#は女という一般的には狙われやすい立場でありながらそれを跳ね除けるほどの実力を持っていた。#名前#自身も守ってもらうなんて考えは一切なく、度胸もあって頼もしいとさえ思う。
その反面、船員たちの冗談を真に受けて騙されたり窓拭きをしていて梯子から落ちたりと危なっかしく、なんだか放っておけないところがあるのも事実だった。この前は潜水から浮上した後の甲板を走り回ろうとして滑っていたなと、危なっかしい一面に遭遇した時のことを思い出す。

「そう簡単に手放して堪るか」

#名前#はハートの海賊団の一員であり大事な戦力だ。もう一度地図に目をやり、今しがた決めた行先の島を見つめる。その島の名前とローの記憶の中にある島の名前は一致しており、ローは不敵な笑みを浮かべていた。


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