インターン
交渉



 何がどうなったのか。遠目で探った地下の通路は、まるで鍾乳洞が地震で崩れてしまったかのようにボコボコに歪み、縦横無尽に柱が倒れ複雑に入り組んで、人工的な地下道とは思えない有様だ。
 斜めになっている柱のような岩をよじ登るヴィランの二人を見つけ、西岐は迷わず二人の前へと瞬間移動した。

「お、まえ、お前知ってるぞ、誰だ!」
「西岐くん!」

 ヴィラン二人が敵にしては妙にコミカルな反応を見せる。
 顔半分をハンカチで覆ったジャンプスーツの男・トゥワイスと、歯のような奇妙な装備を付けた女子高生・渡我。神野のバーで見た顔だ。しかし西岐はあの時、会話の中から名前を拾い上げて覚えるような余裕はなく、一切を覚えてはおらず、遠耳で聞いた会話から『トガ』『ジン』という名前を拾い上げていた。

「え、っと……ジンくん? お願いがある……んだけど」

 雄英の生徒と、ヴィラン連合のメンバー。出くわせば普通なら警戒を露わにして戦闘の構えを取りそうなものなのだが、どちらもが悠長に突っ立って向かい合っていた。
 西岐は多少言葉をつっかえさせつつも、躊躇いなくトゥワイスに向かって自分の要望を告げる。こんな状況誰かに知られれば非常にまずいのだが西岐にとって必要な手段だった。一応は遮蔽物を透かして周囲に目配せし、警察関係者さえ誰もいないことは確認済みだ。

「お礼は、そうだな……俺の血でどうかな」

 要望が受け入れられるなら少々の血くらい安いもの。そう言い放つと渡我が頬を紅潮させてパアァッと目を輝かせた。

「そっちにリスクしかないぜ、メリットだらけだ」
「私は歓迎です、西岐くんの血、ほしい!」

 トゥワイスが懸念しているのは西岐のリスク・メリットではなく、どういう意図で交渉してきているのかということなのだろうが、拒絶するという空気も纏っておらず、陽気な雰囲気が西岐の警戒心を緩めてしまう。
 ハンカチで覆っている部分はマスクが破れているのだろう。そっと軽くトゥワイスの腕に触れマスクを復元してやれば、嬉しそうな様子で元通りになった部分をペタペタ触っている。その行為で、交渉が成立したと言っていい。
 渡我がいそいそと装備から伸びているチューブを引っ張り早速その先端を西岐に向けた。
 アームウォーマーを手首側から捲り差し出すと、渡我が先端を突き刺し、機械によって血液が勢いよく吸い出されていく。一気に血の気が引いていく感覚に片目を眇め、ある程度になってから西岐の手が管を引き抜く。

「あ……」
「あんまり抜くと、動けなくなる、から」

 渡我の不満げな声に苦笑で返すと、むうと膨れながらも管を装備に戻す。

「じゃあ、おねがい」

 西岐がそう言うと同時にトゥワイスが手首の装備からメジャーを引き出した。
create 2018/04/10
update 2018/04/10
ヒロ×サイtop