インターン
救われるということ ヴィラン二人と接触した後、事態を把握したくてまずは遠目で探った先は、想像以上に壮絶な景色が広がっていた。
一人先を行き、治崎を追っていたらしい通形が通路の途中で力尽きたように倒れ、ナイトアイが身体の真ん中を串刺しになり、緑谷もまた四肢に尖った岩が突き刺さっている。
瓦礫の中、よろめきながら治崎のほうに歩いていく少女。
治崎の凶悪な強さと、緑谷たちの深すぎる傷が少女を呼び戻してしまったらしい。治崎が投げかける言葉は脅迫だ。お前が戻らなければ全員が死ぬと。そう脅されて救けられる道を選べるほどあの少女は希望の中を生きてはいないだろう。
手に取るように少女の心が想像できる。どうしてなのかは分からないけれど。
治崎の元に戻ろうと足を進めていく少女の前に、静かに姿を現して、不安定な足場でジャリと砂を踏む。
「違うよ……エリちゃん」
背を向けたまま少女の目線を塞ぐように手のひらを広げる。
「救けてって言わなきゃ……」
救われるには覚悟がいる。自分の為に誰かが傷つくということ、目を逸らさずに差し伸べられた手を取らなければ。自ら手を伸ばさなければ……。
「君のヒーローは、……絶対君を救けるよ」
背後の少女に語り掛ける。見上げてくる視線を背中で感じた。自分の言葉で少しでも心が揺れ動いてくれないだろうか、そう思いながら、凄惨な景色の中心に目を据える。
左側に傷だらけの緑谷、そして……正面に恐らく治崎であろう人物。
奇妙な筋模様の入った四本の腕。マスクとも融合してしまっているように見える。手のひらに口のようなものがあってアレが声を発していたようだ。姿形のせいだけではない、治崎の内面から滲み出る凄みに恐怖を感じて体が震えそうになった。少し前までは無敵なような感覚さえあったというのに、暗間が指で触れて逆戻りしてしまっている。
グッと奥歯を噛みしめて、指先に意識を向ける。パチッと弾ける感覚を確認しながら、軽やかに踏み出す。
すぐさま治崎が触れた地面が巨大な棘状になって西岐に襲い掛かる。
キンと耳鳴りがして、次にどう動くのかが眼に映り込み、寸でのところで身を翻して避ける。あとわずか数メートルという距離になって耳を打つような音と共に岩が割れ、浮き上がって、礫というには大きすぎるそれらが身体を掠めた。
だが地面が押し寄せて身体にぶつかるという直前に、西岐の身体は治崎の背後にあった。
電気を纏う指先で治崎の腕に触れようとし、――同時に、治崎もが西岐に触れた。
バツン、という恐ろしい音がして、西岐の半身が弾けた。
「サイキッッ!!!!」
緑谷が叫ぶ。
飛び散った大量の血肉が目の前の治崎に降り注ぐ。
一瞬だった。
弾け消えたはずの西岐の身体がメキメキと音を立てながら盛り上がり、くっつき、次第に元の形へと復元されていく。治崎に壊された身体が数秒も経たぬうちに元に戻っていた。頬に張り付いた血と肉片を復元された腕で拭う。
「――バケモノ」
目の当たりにした治崎が吐き捨てる。
「あなたがそれを言うの」
眉尻を下げて酷く歪んだ笑いを浮かべ、治崎が次の行動に移る前に小さく《封印》と呟けば、融合していたらしい治崎と部下とが不気味な音を立てながら次第に分裂し始める。
このまま治崎の個性を完全に封印してしまえば即解決なのだろうけれど、身体が保たなかった。ズルッと指先から崩れ始める。治崎の個性で壊されてそれを復元しても耐えた身体が、封印の反動には耐えられない。それだけの反動があるということだ。
どろどろと溶け始めた身体を見て緑谷が慄いている。
「デクくん、後は任せた、よ。俺はイレイザーさん……救けに……」
折角の封印が解けてしまう。引き剥がされかけた融合が再び元に戻っていくのを見ながら、その場にいた西岐の姿は液体のようなものになって消えていった。
create 2018/04/10
update 2020/03/15
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