雄英高校
個性把握テスト 固まってしまった轟をよそにクラスメイト達はぞろぞろとグラウンドへ向かった。
障子は一人でグラウンドに出てきた西岐に声をかける。正確には障子の触手についた口が声を発した。
「轟は平気そうか」
「え、あ、うん……たぶん?」
当の本人はよく分かっていないのかあまり心配もしていない様子で頷く。
ずっと一連の流れを何気に見ていた障子は、轟を哀れに思った。西岐に罪はないが無自覚にも程がある。
相澤がのそのそ歩いてきて集合がかかる。
これからやるテストのこと、最下位は除籍処分とすることを言い渡される。理不尽だと騒ぐクラスメイトたちへ相澤が屁理屈のようだが一応は筋が通った《ごもっともな主張》を返してテストが開始した。
はずなのだが。
50メートル走の計測が始まってみんなが走っている生徒を観察している中、西岐が障子の腕にそっと触れてきた。
「なんだ?」
「……これ触腕?」
見上げてくる西岐の頬がほんのり色づいている。
「すごいね、口がついてる……わあムキムキだぁ」
クラスの中でも特に見た目に個性が現れるタイプの障子に興味津々のようだ。
細い指で腕の筋肉を押されて物凄く擽ったい。が、嬉しそうに触れてくるのを拒むのは罪悪感がわいて障子はされるがままになる。
「いいなぁ、俺もこういうふうになりたい」
くらっと眩暈がした。
障子とて健全な高校生男子だ。頬を染めながら華奢な手で触られて、"くる"ものがないわけがない。
そうこうしているうちに障子の番がくる。
雑念を振り払うようにスタートラインを飛び出した。
そのあとはどう走ってどう結果を出したかよく覚えていない。
走り終え、一人になってしばらく。
障子は落ち着きを取り戻した。
合図が鳴ってスタートラインに西岐が立った。出席番号順に二人ずつ走っていたのだが端数の西岐は一人で走ることになるらしい。
そういえば西岐の個性を知らなかったなと向き直る。
障子だけでなくほぼ全員が最終走者になんとなく意識がいっていた。
それぞれが使える個性を全力で発揮して走り抜けた50メートルを西岐はどう走るのかと見ていれば、ゴールを切るまで特に個性を使った様子を見せず、ごく一般的な数字で終えた。けして遅くはない。だがそれはあくまで"個性を使わない"平均値のなかでの話に過ぎない。
まあ、向き不向きの個性もあるのだろうと自分を納得させるが、そこで障子は自分が西岐に何か期待をしていたことに気付く。それがどうしてなのかはさっぱりわからなかったが。
続いての種目、握力。
障子の得意種目の一つと言って過言ではない。
触手を束ねて握力計を握るとデジタル表示部に540と出る。
「すげぇ!! 540キロって!! あんたゴリラ!? タコか!!」
「タコってエロイよね……」
「タコすごいね、つよいね」
群がってくる瀬呂や峰田に交じって称賛してくれる西岐。
ちらりと見た西岐の握力計には35と表示されており握力に至っては高校男子の平均を下回るようだ。
「ね、ね、」
その西岐にペチペチと腕を叩かれる。
何事かと次の言葉を待っていれば、
「俺の手ギュッてしてみて」
とんでもないセリフが飛び出してきた。
障子の鋭い目が大きく見開かれる。
早速、西岐の手が握手をするような形で障子の手の中にすっぽり収まってスタンバイしているが、スチール缶さえやすやす潰せる障子にどう力を込めろというのか。
「バカ西岐、やめとけ。手がつぶれるぞ」
「そうだぞ! 障子の精神も限界だ!」
瀬呂と峰田が止めに入ってくれる。特に峰田はさっきから状況把握力がキレッキレだ。
二人の制止が効いたのか障子の手の中から西岐の手が出ていく。
感触だけが残っていて、それが気持ちをざわざわと掻き乱すものだから何とも言えず拳を握った。
そんな障子の背中に刺さる遠慮なしの視線。触手による洞察力アップをせずとも痛いくらいに感じる視線が、ひとつ、ふたつ、みっつ……。
「次は立ち幅跳びだ、早くしろ」
最終計測者の西岐を含めていまだ群がっている峰田達に相澤の一喝が飛んでくる。
さっきの視線の中に相澤のものもあったのを障子は知っていたが気付かないふりをして砂場に向かった。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイ|top