雄英高校
本領発揮 その後の反復横跳びでも西岐は個性を発揮した超人的な記録は見せない。個性を駆使して行われるテストの中で明らかな見劣りをしていた。
そういう生徒はなにも西岐だけではなかったが。
第5種目、ボール投げ。
これまで目立った結果を出していない緑谷がコートに立つ。表情には明らかな焦りが伺える。
意を決したように振りかぶる。
だが、結果は46メートルと冴えない結果に終わる。
理由は明白。
相澤の『抹消』により個性を消されたからだ。
緑谷の近くで話す相澤の言葉はこの場にいる人間には聞こえていないようだが、障子の複製した耳にははっきりと聞こえていた。
どうやら緑谷は自身の個性を制御できないらしい。相澤の言葉を聞いて障子の脳裏に入学試験の一場面が過った。そういえば、終わりがけに誰かがギミックを殴り倒した後で行動不能の大怪我を負っていた。あれが緑谷だったようだ。
一人を救けて木偶の坊になるようではヒーローになれないと告げて緑谷を解放した相澤。
離れたところにいる生徒たちは指導を受けたのか何なのかと話している。爆豪の言う『除籍宣告』もあながち間違いではない。
「わあ……イレイザーさんだぁ」
ただ一人、西岐だけが感激したように頬を紅潮させている。
緑谷、二回目のボール投げ。
行動不能にならないようにと考えたらしい。人差し指にだけ個性を宿し投げられたボールは700mを優に超えた。
周囲の生徒たちが緑谷の個性に好き好きに述べる中で、なぜか憤慨した爆豪が緑谷に突っかかっていき相澤に捕縛されるのを眺めながら、西岐は『イレイザーさんだ、イレイザーさんだ』と感激し続けている。
分かっていないのか暢気なのか……。
緑谷がボール投げでそれなりの記録を出したということは現在の最下位はおそらく西岐だ。
告げてやるべきか悩んでいる間に種目が進んでいく。
ボール投げが終わり、長座体前屈、上体起こしに至るまで西岐は個性を全く使っていない。
残すところあとは持久走しかない。
「西岐、個性は使わないのか?」
「……へ?」
心配が極まって障子の口から転がり出る。
気の抜けた反応が返ってきて障子の心配は膨らむ。
「トータル成績が最下位のものは除籍処分と言っていたが」
「え?」
「聞いてなかったのか」
「聞いてなかった……です」
もっと早く言えばよかったと後悔の念が渦巻く。
「なんで個性を使わなかったんだ?」
「え、あ、俺の個性はこういうのに不向きだったから……いいかなって」
「そこも含めてどうするか見るテストだと思うぞ」
これまで大した結果を出していないうえにもう最終種目だ。
少しは焦りの色を見せる。合掌した手を鼻と口に当てている。策を考えているのか自分を落ち着かせようとしているのか。
持久走は400mトラックを25周で計10000m走る。
一人一人が腕につけた計測器とトラックに設置された計測器の反応によってトラックタイムと何周したかを記録するとのこと。
細いリストバンド状の計測器をつけて全員がスタート位置で構える。
障子は西岐のことも気にかかるがまずは自分のベストを尽くそうと集中する。
「START!」
合図が鳴り響く。
あるものは氷の上を滑り、あるものは爆破で加速し、あるものは反則レベルのものを生み出し、あるものは足のエンジンで疾走し、各々個性を撒き散らす。
が、次の瞬間誰もが驚いた。
「ぱっ」
一瞬で西岐の身体が200m先に現れ、次にはもう計測器の前に移動した。
あっと思ったころにはもう先頭集団の背後に現れ、そしてまた計測器の前へ移動する。
繰り返すこと25周。
圧倒的速度とペースダウンなしで持久走を終えた。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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