雄英高校
見込みと肩入れ



 2位以下が大きく引き離された持久走の結果に相澤は面白そうに笑う。

「このテストをずいぶん舐めてるのかと思ったが、やればできるじゃないか」
「あ、あいざわせんせ……えへへ」

 今までの手抜きを咎めると誤魔化すような笑いが返ってくる。どうせ説明を聞いていなかったのだろう。だが結果が見られた以上咎める気はない。
 それより今見た能力に対して素直に感心する。
 西岐の能力の中に瞬間移動があることは聞いていたがまさかこのレベルとは。
 抑制や封印とは違ってさほど疲労を感じないのか、数か月のうちに鍛えて使いこなせるようになったのか。なんにせよ褒めていいレベルだ。

「わあ……すごいね」

 西岐はなだれ込むようにゴールする先頭組を眺めて感嘆の声を溢した。

「これからあれと競い合うんだ」
「あー……うん」

 厳しい言葉で現実を突きつけると俯いてしまう。
 放っておけば暢気な性格をしているのに少しつつくとこうだ。厄介な性格をしている。

「西岐、おまえはすごい。個性を使いこなせるようになれ」

 少し甘いかと思いつつも頭を撫でてやる。
 結果を出したのだから、これくらいはいいだろう。
 照れくさそうに笑う西岐を尻目に全員走り終えたのを確認して集合をかける。

 まとめて結果発表からの、合理的虚偽という名の前言撤回を生徒たちに食らわせて授業を終える。
 トータル成績最下位の緑谷を含めて何人かの激しいリアクションを食らうが、その中に西岐はいなかった。本当に除籍には焦ってなかったのだろうか。いっそ相澤のほうが焦るくらいだ。

「相澤くんのウソつき」

 どこかで聞いたようなセリフが降ってくる。
 物陰から見ていたらしいオールマイトの姿に疲れを感じた。正面切って除籍云々に突っ込みを入れてくるのが本当に鬱陶しい。
 これまで見込みなしと判断した生徒を容赦なく切り捨ててきた相澤が今回に限って前言撤回したことに文句が言いたいのかと構えていれば、どうやら『緑谷に可能性を感じたのでは』というのが言いたかったらしい。
 別にそれ自体は間違ってはいないが相澤が感じた可能性は緑谷個人ではなくクラス全体に対してだ。
 だがオールマイトは違うようだ。緑谷個人の話をしている。

「……君も? ずいぶんと肩入れしてるんですね……? 先生としてどうなんですかそれは」

 遠慮ない言葉で核心を突くと、あからさまに動揺してみせる。戦いの中で常に笑顔を浮かべて安心させるトップヒーローがこれでどうすると呆れる。
 しかしオールマイトも思うところがあったのだろう。

「でも君も西岐少年に肩入れしすぎだよね」

 思いがけないブーメラン攻撃を食らって相澤の足が止まる。

「オールマイトさん、推測するのは勝手ですけど西岐にまでちょっかいかけるのは流石に手に余ると思いますよ」

 相澤の脳裏に浮かぶのは今朝の光景。
 言葉の端端に滲み出る。
 目と口でしっかり釘を刺してから背を向け校舎へと戻っていった。





 残されたオールマイトは、

「あれじゃあ全然否定してないよ、相澤くん。やっぱ……合わないんだよな――」

 ぼんやり呟くのだった。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイtop