雄英高校
ランチタイム 雄英高校入学から二日目。
午前中の普通授業を終えて昼食。
ほとんどの生徒が集まる大食堂メシ処は大混雑している。
西岐はトレーを持って座る場所を探していた。
どこも知らない集団で埋まっていて、空席は集団と集団の間という微妙なところ。
「西岐くーん! ここ座んなよ!」
自分の名前を呼ぶ声に振り返るとクラスで見た顔が手を振っていて、同じテーブルに麗日を除いたクラスメイトの女子5人が揃っている。
助かったと空いた席に座らせてもらう。
正面に座っている子が確か芦戸で、隣が蛙吹だったはず。
「あの……ありがと、あしどさん。あすいさんも隣座らせてもらうね」
「どうぞどうぞ!」
「遠慮しなくていいのよ」
初めて話す女子、とはいえ大して性別を意識していない西岐は、たとえ女子の集団でも居心地が悪いとは思わない。むしろ何故か昔から女子のほうが話しやすいくらいだ。
歓迎してくれるのは芦戸と蛙吹の2人だけでなく、他の3人も気軽に声をかけてくれる。
「あれ、西岐くんお昼それだけ?」
姿が見えないけれど恐らくトレーの上を覗き込んでいるのであろう葉隠に、
「野菜スティックって、マジか」
つられて耳郎もどよめき、
「だから西岐さんはそんなに細いんですわ」
八百万は言いながら自分のコンプレックスを刺激したのか眉を寄せ、
「ほんとそれな!」
八百万の言葉に芦戸が賛同する。話題は一気に体形の話になっていく。流石女子。
そして西岐は聞き役に徹しながらポリポリと野菜スティックをかじる。ちなみにスティックを好きな順に並べると大根・きゅうり・パプリカ・セロリ・にんじん。だからにんじんから食べる。
「好きなものは取っておく派なのね」
「え、うん。あすいさんは?」
「梅雨ちゃんと呼んで。私は先に食べちゃうわ」
「あ、うん。つゆちゃん。そうなんだね」
鋭い観察眼で突っ込んでくる蛙吹に頷くと、さりげなく呼び方を訂正される。
すんなり受け入れて呼ぶとほんのりと嬉しそうな気配が漂ってきた。
「私はれぇちゃんって呼んでいいかしら」
「いいよ、えへへ」
これにも快く頷く。さすがにちょっと照れくさくて最後は誤魔化すように笑ってしまった。
と、それまで体系の話題で盛り上がっていた4人の目がこちらを向く。
「はい! はいはい! 私も私も!!」
「私もれぇちゃんって呼ぶ!」
「私も! 私のことは響香ちゃんって呼んでいいよ」
「わわ私はれぇさんとお呼びしますわ」
一斉に喋る女子たちに思わずたじろいでしまう。
斯くして賑やかに始まったお昼タイムだが、"呼び名合戦"が終わり"お気に入りの部屋着について"を経て"中学の時憧れていた先輩"に至り、チャイムが話題をぶった切るまで女子たちのテンションは途切れることがなかった。
「くっそう、西岐め、羨ましいぞチクショー!!」
「なんであの会話の中にナチュラルにいられるんだよアイツ」
峰田と上鳴の羨望の声が食堂の片隅で響いていたとかいなかったとか。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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