雄英高校
コスチューム そして午後。ヒーロー基礎学。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
お昼の女子たちを遥かに凌ぐハイテンションと独特の暑苦しさを纏ってオールマイトが登場した。
憧れの人物を前にしたざわざわが教室中に充満している。
オールマイトによって提示された今日の課題は《戦闘訓練》。
壁から引き出された収納スペースに各自の戦闘服が用意されていると聞いてクラスメイト達の気持ちが高ぶる。
自分のコスチュームを持って更衣室へと急いだ。
集合場所はグラウンドβ。それぞれがコスチュームを纏って大きな退出口から現れる。
「おお、れぇちゃん、シンプルかっこいい!」
「かっこかわいい!」
さっそく芦戸と葉隠が寄ってきて褒めてくれる。葉隠は手袋と靴しかないけど多分葉隠であっていると思う。
二人に言われて自分で自分の格好を改めて見る。
黒のTシャツと黒のパンツ、両手首のブレスと首元にぐるぐる巻いた布。本当にシンプル。装飾はいらなかったしそんなに要望も多くはなかったからこうなった。大体要望通りだと思う。
ただ……、
「なんか……サイズあってない気がするんだよ、上はダボっとしてるのにズボンぴっちりしすぎ……この靴ヒールあるし。歩きにくい……」
着替えた時、轟ら数人に奇妙な反応をされたこともあって、自分のコスチュームがおかしいのではないか不安になっていた。
「サポート会社の人に女の子と勘違いされたんじゃないの?」
「――えっ」
「大丈夫、似合ってますわ!」
女子たちのコスチュームのぴっちり具合を見て、耳郎の推測は当たっているような気がしてくる。
似合っていると言われても何が大丈夫なのかわからない。
けれど機能に関しては信用できるはず。
そこに期待を抱いていると、横から蛙吹がじっと見つめてくる。
「その服、なんとなく相澤先生に似ている気がするわ」
さすが蛙吹というべきか。
鮮やかに言い当てられて西岐の頬が染まる。それほどバレバレだったか、と。
「……うん、えへへ。そうなの、イレイザーさんの真似」
否定することでもないので素直に頷くと、女子から『きゃあ』とか『わあ』とか『まあ』とか小さな悲鳴に似た声が上がる。西岐には意味がよくわからなかったけど女子には楽しいらしい。
緑谷が遅れて辿り着き全員が出揃い、オールマイトの口から説明がなされる。
つまるところ、これからやるのは屋内での対人戦闘訓練。くじでヴィランチームとヒーローチームに分かれて戦う。《ヒーロー》は《ヴィラン》を捕まえるか《核兵器》を回収、《ヴィラン》は《核兵器》を守るか《ヒーロー》を捕まえることで勝利となる。制限時間は15分。核の場所は《ヒーロー》には知らされない。圧倒的ヒーロー側の不利の中行われる。
西岐のくじの結果はJ。瀬呂と切島と同じチームだ。ここだけ三人チームになるが人数の不利も想定内の壁ということだ。
最初の《ヴィラン》と《ヒーロー》が決定し、4人は演習用のビルへ、他のものは同ビルの地下モニタールームへ移動する。
訓練がスタートして間もなく、奇襲から戦闘(バトル)が始まった。
緑谷が機転と体の動きだけで翻弄していた前半と、爆豪の圧倒的破壊力とずば抜けた戦闘センスでねじ伏せにかかった後半。結果は《ヒーロー》の勝利だが1名が戦闘不能となり終わった。
建物は横っ腹と中央部に大きな穴が開き見るも無残だ。
西岐は吸い込まれるように画面を見つめていた。
「勝負に負けて試合に勝ったということか」
「授業だけど」
常闇と蛙吹の言葉がどこか意識の遠くで聞こえる。
「西岐、大丈夫か」
「だいじょうぶ」
誰かに心配された気がする。ふわふわした声が答えるが自分の声という実感がない。
講評の時間となりそれぞれの反省点と評価が手厳しく告げられる。
八百万の明確で鋭い洞察力と理解力、理論の組み立て方は堂が入っていて、さすがは推薦組だという空気が流れた。ここで初めて八百万が推薦入学者だと知る。
続いて第2戦。
決着がつくのはあっという間のことだった。
ビル全体が氷漬けになり、《ヴィラン》チームは動くこともままならない状態で敗北を喫した。
「す……すげぇ」
「なんて個性だよ」
「さすが推薦入学者ね」
モニタールームに称賛とも驚嘆ともとれる声が散らばる。
どうやら轟も推薦入学者らしい。
知ったからと言って何が変わるわけでもないが『さすが推薦入学者』の言葉は強く脳裏にこびりつく。
西岐も推薦入学者だ。
この中にどれだけそれを知っている人間がいるかはわからないが、すぐ知られてしまうに違いない。
1戦目、2戦目で見せつけられたレベルと、先程の八百万の講評に圧倒されてしまっている自分がいる。自分の想像よりはるかにヒーローを目指すということは厳しいらしい。これほどの高みを超えていくのか。
『これからあれと競い合うんだ』
相澤の言葉が蘇る。今になってやっと意味が理解できた。
このままではいけない。力を出し切らないで凌ごうなんてできない。
ぐっと、手を握り締めた。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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